池田さとみ「白球のプリンセス クリス・エバート・ロイド物語 愛と拍手にささえられたアイシードール」(『神和住純のすてきなテニスレッスン』)

単行本:小学館ミニレディー百科シリーズ28『神和住純のすてきなテニスレッスン』(1982年)


 1970年代〜1990年代にかけて小学館から発売されていた小学生女児向けの百科事典「ミニレディー百科シリーズ」の中の一つとして発売された『神和住純のすてきなテニスレッスン』の中に掲載された20頁の漫画作品。作者の池田さとみは『シシィガール』や『適齢期の歩き方』など、様々なジャンルで活躍した漫画家で、現在は『新 外科医 東盛玲』を『夢幻館』にて連載中。
 1970年代〜1980年代の女子テニス界に君臨した実在の選手クリス・エバートの実録物語。「氷の人形(アイシードール)」の異名を持つ彼女の、デビュー以後の快進撃、英国人選手ジョン・ロイドとの結婚、そしてその後のスランプから脱出して復活を遂げるまでの過程を描いた物語であり、最後の頁には本書が発売された当時(27歳)の彼女の写真が掲載されている。
 全体的に淡く繊細なタッチで描かれており、冷徹な仮面の裏で思い悩むエバートの心情が細やかに表現されている。ただ、夫の愛に支えられて復活する物語自体は非常に美しいのだが、その後の二人の行く末を知っている身としては、やや悲しい気分にさせられる。
 ちなみに、日本では一般に「アイスドール」と呼ばれているが、これは日本独自の呼び方のようで、欧米圏では「Ice Maiden」「Ice Princess」「Ice Queen」などといった呼称が用いられる(一応、「Ice Dolly」という呼び名もあるらしい)。また、「アイスドール」の名を持つ(=エバートをモデルとした)女性キャラは『テニスボーイ』『おはよう空』『STAY GOLD』などにも登場する。
 なお、本書の監修を務める神和住純は元テニス選手で、『スポーツ・コミック・ガイド』など様々なテニス関連書籍に名を連ねるが、本作品には直接的には無関係の様子。本書自体はテニスの入門書としても実に丁寧に作られており、随所に見られる少女漫画系のカットも、市川みさこ、くじらいいくこ、そうだふみえ、中原千束など、それなりに名の知れた漫画家が顔を揃えており、色々な意味で興味深い一冊である。