川瀬夏菜『ガーリッシュ シーズン』

ガーリッシュシーズン (花とゆめCOMICS)

ガーリッシュシーズン (花とゆめCOMICS)

初出:『LaLa DX』(2003年)
単行本:白泉社花とゆめコミックス(2007年) 全1巻


 白泉社系の雑誌を中心に、『知らない国の物語』や『飛べない魔女』などを発表している川瀬夏菜が、『LaLa DX』で描いた短編作品。後に表題作扱いで単行本化された(同時収録は他に「真夏のスペル」「江戸ルネサンス」「未完成幸福記録」)。現時点での作者の最新の単行本は『星よみの予言者』。
 主人公は、3人の姉を持つ末っ子の長男・木田葉月(中3)。葉月は女顔の美少年であるが故に、よく姉達の手で女装をほどこされている上に、姉達よりも家事を初めとする全てに長けていることもあって、実質的に家庭内での主婦的立場に収まっている。そんな木田家に、高3の姉・千夏のテニス部の後輩である内藤真奈が訪ねて来たことを契機に、少しずつ彼の価値観・人生観が変わり始める、という物語。
 最初の2頁を読んだ時点で、良くも悪くも「白泉社だなぁ」と思わせる、そんな内容である。葉月は自分の「かわいさ」を理解した上で、それを武器ともコンプレックスとも思わずに「客観的事実」として受け入れられる冷静さの持ち主であり、姉達に振り回されながらも全く動じずに笑顔で応対出来るだけの「要領の良さ」も兼ね備えている。そんな彼が、ひたすらに要領の悪い真奈との出会いを経て、心が揺れ動いていく心情描写が、本作品の主軸であり、その点は上手く描けていると思う。
 絵に関しては、私としては絵柄は好みなのだが、いかんせん「動作」を描くのはあまり上手い人ではないようで、テニスの場面に関しては断片的に描かれる程度にすぎない。一応、単行本描き下ろしのイラストのコメントによると、葉月自身もテニス部という設定らしいのだが、結局、彼がラケットを振る場面は一度も描かれなかった。作者はソフトテニス部出身らしいので、その点が生かされていないのは少々残念ではある。
 まぁ、展開的には「なぜ、ここでそうなる?」と言いたい箇所もあるが、基本的には「女装少年の可愛さ」を楽しむ作品だと思うので、あまり野暮なコメントは不要だろう。作者は姉達の話も描きたかったらしいが、それが実現しなかったのは、ちょっと勿体ないかな。