羅川真里茂『しゃにむにGO』

しゃにむにGO (1) (花とゆめCOMICS)

しゃにむにGO (1) (花とゆめCOMICS)

連載:『花とゆめ』(1998〜2009年)
単行本:白泉社花とゆめコミックス(1998〜2009年) 全32巻


 『赤ちゃんと僕』(1996年アニメ化)などで有名な羅川真里茂(らがわ・まりも)が『花とゆめ』で描いた作品。テニス漫画史上最長の「11年」にわたって連載され、スポーツ少女漫画としても最多の単行本巻数(32巻)を記録した。
 主人公は、中学時代に陸上界のスターだった伊出延久(のぶひさ)と、テニスのジュニア選手として注目されながらもスランプに陥っていた滝田留宇衣(るうい)。この二人が千葉県の幕ノ鎌高校へと入学し、弱小だった同校テニス部を一変させることになる、という物語。この二人と、滝田の長年のライバルである神奈川・翔華学園の佐世古駿(させこ・しゅん)、そして駿の縁者で延久のテニス転向の原因となった女性・尚田ひなこの四人を中心として、彼等の高校時代の三年間の物語が描かれる。
 基本的には、テニス軸(初心者である延久の成長&留宇衣のスランプからの脱出)、恋愛軸(ひなこ・延久・駿の三角関係)、家族軸(複雑な家庭で育った留宇衣&駿の葛藤)という三つの軸を中心に展開されており、作品全体のテーマも非常に深いが、ムードメーカーとしての延久の「古臭いギャグ」を中心とするコメディ系のスパイスが、重くなりがちな雰囲気を和ませながら程良いバランスに仕上げている。
 テニス描写は実に丁寧で、初心者・延久の視点から、分かりやすくテニスの面白さを伝えてくれる。戦術的にも演出的にも派手さはなく、極めて堅実な作風であるが、精神描写を中心としつつも白熱した試合展開には、手に汗を握って熱中させられる。
 個人的に一番好きだったのは、主役組以外の面々の出番も多かった第二部で、特に全国大会団体決勝S2の話は絶品である。一方、第三部では主人公達の精神葛藤の物語が中心となり、テニスの場面も減ってしまうのだが、その葛藤を乗り越えた後の終盤の試合の面白さは申し分ない。ただ、サブキャラ達の物語が薄くなってしまったのは残念ではある。
 少女漫画界全体でスポーツ漫画が低調なこの時代に、伝統的にスポーツ漫画の弱い『花とゆめ』でこのような傑作が生まれたのは、まさに歴史的な快挙と言えよう。テニスへの興味の有無に関係なく、全ての人々に文句無しにお勧め出来る普遍的な名作である。