草場道輝「ダウン・ザ・ライン」

連載:『ヤングマガジン』(2008年)
単行本:未発売


 『見上げてごらん』の草場道輝が、同作品終了後に『ヤングマガジン』2008年第22・23合併号にて掲載した読切作品。現時点ではまだ単行本化はされていない。作者は現在、『ビッグコミック・スピリッツ』にてサッカー漫画『LOST MAN』を連載中。
 主人公は、27歳で日本ランク139位のプロテニス選手・山口秋芳(身長163cm)。物語は、全日本テニストーナメント2回戦で、彼が格上の日本ランク6位の島津薩馬を相手に善戦している場面から始まる。そして、作中の画面はその試合を見つめる元ホームレスの男・石川兼六が、数日前に江戸川の河川敷で山口と遭遇する回想シーンへと移り、二人の奇妙な友情関係を軸に、27歳にして夢を負い続ける男達の情念が描かれることになる。
 恵まれた身体と輝ける未来に満ち溢れていた『見上げてごらん』の了達とは対照的に、プロテニス界の底辺でもがき続ける男のリアルな物語を描いた作品であり、青年誌の短編漫画としては極上の一品である。テニス界は基本的に、宣言すればその瞬間から誰でもプロになれる訳だが、現実には日本ランク100位台の選手はテニスだけで生活出来る収入など得られない訳で、そんな世界における絶望感と、その中で僅かな希望にすがって生きようとする男達のギリギリの精神状態が、絶妙のバランスで描かれている。
 絵の上手さは相変わらずで、スポーツ漫画に必須な「動的な筋肉の描き方」を心得ているだけでなく、試合を見つめる石川が金網を掴んで必至に声を張り上げる場面などからも、手に汗握る迫力が伝わってくる。正直、あの壮絶な打ち切り劇のせいで、もうテニスを描くのが嫌になってしまったのではないかと心配していただけに、またこのような作品を描いてくれたことが非常に嬉しい(でもまぁ、やっぱりこの人の本業はサッカー漫画だとは思うけどね)。
 とりあえず、唯一難癖をつけるとしたら、もうちょっとマシなネーミングは思いつかなかったのだろうか、という点かな。覚えやすくて良いとは思うけど、さすがに安易すぎるでしょう。