河原和音『君が好きだから!!』

君が好きだから!! (マーガレットコミックス)

君が好きだから!! (マーガレットコミックス)

連載:『別冊マーガレット』(1994年)
単行本:集英社マーガレットコミックス(1994年) 全1巻
    集英社文庫コミック版(2005年) 全1巻


 『先生!』や『高校デビュー』などで有名な別マのエース・河原和音の初期の短期連載作品。単行本としては、当初はマーガレットコミックスとして一冊の単行本にまとめられた後に、集英社文庫からも発売された(文庫版の同時収録は「明日は晴れる?」と「修学旅行」)。現在の作者は昨年からブラスバンドを題材とした『青空エール』を別マに連載中であり、早くも集英社の公式サイトでVOMIC化を果たしている。
 主人公は、高校二年生で女子テニス部員の森下砂月と、その友人で裁縫部の土屋ゆくえ。活発で男女問わず人気者の砂月と、内気で引っ込み思案なゆくえは、二人の友情を維持するために「同じ人を好きになったら困るから、好きな人が出来ても黙っている」という約束を交わしている。この二人と、男子テニス部員の藤原、そして彼の中学時代からの友人である成瀬の四人を軸とした、不器用な高校生達の恋と友情の物語が描かれる。
 「女の子の友情」というのは、なかなか男性には理解しがたい訳だが、本作品には色々な意味で「なるほどね」と思わされた。このような形での「友情」がリアルか否かは不明であるし、ちょっと出来すぎた展開のような気がしなくもないが、安易なドロドロ恋愛劇や露骨な百合モノに走るのではなく、様々な形での「微妙な依存関係」を交差させながら青春群像を描く手法は、個人的には非常に共感が持てる。
 テニス描写に関しては、砂月の試合の場面が若干描かれる程度で、あとは部活風景の「背景」としての効果以上の価値はない。おそらく、砂月と藤原の会話を見て心が揺れるゆくえを描くための舞台装置として、男子部と女子部が併存するテニス部が最適だったのだろう。
 現在の作者に比べると絵には粗さが残るが、すっきりとした画風やテンポの良いコマ割りの妙は既にこの時点で一定程度完成された域に達しており、その後のヒットメーカーとしての作者の原点としての歴史的価値だけではなく、純粋に一つの作品として十分に楽しめる内容である。ただまぁ、良くも悪くも「地味な作品」なので、物足りないと感じる人もいるかもしれない。