聖千秋『すすきのみみずく』

すすきのみみずく 1 (マーガレットコミックス)

すすきのみみずく 1 (マーガレットコミックス)

連載:『別冊マーガレット』(1993〜1995年)
単行本:集英社マーガレットコミックス(1994〜1996年) 全5巻
    集英社文庫コミック版(2007年) 全3巻


 近年ドラマ化された『正義の味方』の作者としても知られる聖千秋が『別冊マーガレット』で描いた作品。単行本としてはマーガレットコミックスから全5巻で発売され、その後、集英社文庫でも全3巻で発売された。作者の他の代表作としては『イキにやろうぜイキによ』『サークルゲーム』など。
 主人公は、元ジュニアテニスの全国大会経験でもある高校三年生の早川望江(もえ)。複雑な家庭環境で育ち、そのことが原因でテニスをやめた彼女が、受験を控えた緊張感の中で、親友の悦子との人間関係にヒビが入ったことで自分を見失い、かつての自分を取り戻すため、同じ予備校に通う派手好きの女子高生・観崎彩、気弱なメガネ少年・石川進、極端なレトロ主義者・月澤勇進、そして飄々とした雰囲気の不思議な男・吉田弘紀の4人と共に「みみずくの里」と呼ばれる山間の地へと逃亡を企てる、という物語。
 弘紀に案内されて森林のログハウスで生活することになった彼等が、互いに衝突しながらも、それぞれの抱えたトラウマを乗り越えていく過程が、各人のモノローグを交差させながら絶妙なテンポで描かれている。途中から加わる「もう一人の人物」を含めた友情・愛情の錯綜する構図も面白く、最後まで一気に読ませるだけの魅力に溢れている。
 テニス漫画としては、途中で幾度か望江のテニスの場面が登場しており、細部にわたってそれなりにきっちりと描かれている。また(望江の)「ふくらはぎが子持ちシシャモ」「鏡餅のようなたくましい二の腕」といった弘紀の表現などは(絵的には普通の細身の少女のようにしか描かれていないのだが)テニス少女の描写として実にリアルで面白い。
 精神的に不安定な若者達の葛藤が主題となった物語なので、物語の端々で「青臭さ」や「説教臭さ」が色濃く出る場面も多く、その辺が人によっては鼻につくかもしれない。また、設定自体は少し出来すぎな感もあるし、個人的には最後のオチが唐突過ぎて少し拍子抜けしたのも事実ではあるが、そのことを踏まえた上でもう一度最初から読み返してみると、きっちりと一つ一つの行動や発言が伏線になっていて面白い。読む人を選ぶ内容かもしれないが、この手の青春群像モノとしては非常に完成度の高い作品だと思う。