窪之内英策『ワタナベ』

ワタナベ 1 よろしくでござる (ビッグコミックス)

ワタナベ 1 よろしくでござる (ビッグコミックス)

連載:『ビッグコミックスピリッツ』(1992年)
単行本:小学館ビッグコミックス(1992〜1993年) 全3巻


 『ツルモク独身寮』などで有名な窪之内英策が、同作品の連載終了後に『ビッグコミックスピリッツ』で描いた作品。同作品に比べると連載期間は短かったが、1993年には監督:黒沢清、主演:森下じんたん(現:森下じんせい)でドラマ化も果たした。近年の作者は『イブング』にて『ピカもん』を連載中。
 主人公は、地球から2万光年離れたカナーイ星出身のノウモ・カナイータ・キッテ・ヤラカーシ・ホイ・オートイゴンス(通称:ワタナベ)という異星人。赤い全身タイツ的な宇宙服をまとった彼が、生きる希望を無くしてビルの屋上にいた高校1年生・時野妙子の前に現れるところから物語は始まる。ワタナベは卒業論文「地球人における日常とその生態」の調査のために地球を訪れたのだが、誰に話しても彼が宇宙人だと信じてもらえない。しかし、奇妙な成り行きから妙子の父と意気投合した彼は、時野家にホームステイすることになる。
 児童漫画によくある「居候モノ」を青年誌に置き換えた様な、そんな作品である。ワタナベは地球の常識を一切知らないが故に、空気を読まずにイノセントな言動を繰り返し、そのことが妙子達をイラつかせることになるのだが、同時に現代人が忘れてしまった「何か」を思い出させる契機を生み出すことになる、そんな人情話が物語の核を成している。
 そして、妙子はテニス部に所属しているものの幽霊部員状態であったのだが、彼女と同じ一年でありながら、政治家である父親の権威を利用して部長を務めている華蝶斎マキがワタナベを気に入ってしまったことから二人の間で激しい対立が生じ、最終的にはワタナベとコーチの土方陣蔵(モデルはこの人)を交えた混合ダブルスで対決することになる。内容自体はそれほど本格的な試合描写ではないが、サブエピソードの一場面にしては、きっちりと「テニス」が描けていると思う。
 ただ、個人的には本筋である妙子の物語よりも、彼女の父や弟にスポットがあたる話の方が面白いというのが正直な感想でもある。特に、彼等二人の関係を描いた3巻の前半のエピソードなどは、ほどよく現実を踏まえた上での実にバランスのとれた「いい話」だと思う。こういう話を描ける人だからこそ、メジャー誌の第一線で活躍し続けられるんだろうね。