たがみよしひさ『軽井沢シンドローム』

軽井沢シンドローム 3 (ビッグコミックス)

軽井沢シンドローム 3 (ビッグコミックス)

連載:『ビッグコミックスピリッツ』(1982〜1985年)
単行本:小学館ビッグコミックス(1982〜1985年) 全9巻
    小学館スーパービジュアルコミックス(1990〜1991年) 全5巻
    スコラ漫画文庫シリーズ(1995年) 全5巻
    メディアファクトリーMF文庫(2000年) 全5巻


 『我が名は狼』の作者・たがみよしひさが描いた青春群像劇。作者の出世作にして、おそらく最大のヒット作。1985年にはアニメと実写を織り交ぜた変則的なビデオ作品が販売された(翌年には完全アニメ作品として再発売)。そして20年後には、主人公達の息子世代の物語として『軽井沢シンドロームSPROUT』が描かれることになる。
 主人公は、元暴走族でフリーカメラマンの相沢耕平。彼と、彼の親友のイラストレーター・松沼純生(すみお)が、純生の姉・薫が住む軽井沢の別荘を訪ねるところから始まる。いずれはロスへ行くことを夢見つつ、薫の家で仕事を続ける二人を中心として、薫の友人の津野田絵里、元暴走族で薬局店員の久遠寺紀子、不思議少女の木下久美子など、軽井沢の近辺に住む様々な若者達の青春・恋愛模様が描かれていく。
 物語の舞台である軽井沢は、空前の皇太子夫婦の「テニスコートの恋」以来、テニスの盛んな土地というイメージが強い。実際、第一話の冒頭でも耕平は純生に対して「テニスウェア一つ見えない冬の軽井沢をウロウロして、アホや」と語っており、明らかに「軽井沢と言えば、テニス」という一般的なイメージがそには描かれている。
 にも関わらず、本作品ではテニスの場面は一度も描かれず、ラケットが登場したことも一回しかない(BC版3巻134頁)。そして続編『SPROUT』ではそれすら存在しなかった。野枝を舞台にした『』との対比で考えると少々不思議な話にも思えるが、もしかしたら長野県民である作者だからこそ、「軽井沢=テニス」という「外来者達が植え付けた安易なイメージ」とは異なる軽井沢像を描きたかったのかもしれない。
 序盤はひたすら耕平達の愛とSEXが物語の中心となるが、中盤に入ると耕平の過去に絡んだ暴走族との抗争の物語がそこに加わり、終盤では(途中でサブキャラ達が結成した)探偵事務所を絡めた推理漫画的な要素も登場してくる。とはいえ、やはり本作品の中核は、総勢数十人に及ぶ個性豊かな登場人物達の複雑に入り乱れた恋愛・肉体関係である。リアルな軽井沢の町並みを背景に、シリアス絵とギャグ絵を使い分けながら独特の台詞回しで展開される彼等の奔放かつ繊細な恋愛劇は、今読んでも十分に魅力的だと私は思う。