藤見泰高(原作)/カミムラ晋作(漫画)『ベクター・ケースファイル 稲穂の昆虫日記』

連載:『チャンピオンRED』(2006〜2010年)
単行本:秋田書店チャンピオンREDコミックス(2007〜2010年) 全10巻


 藤見泰高カミムラ晋作が『チャンピオンRED』で描いた作品。元々はこの二人が『週刊少年チャンピオン』で描いていた『サイカチ 真夏の昆虫格闘記』の登場人物のスピンオフ作品であったが、結果的に本作品の方が長期連載されることになった。なお、『サイカチ』は1巻のみが発売されていたが、現在Yahoo!コミックで単行本未収録分が公開され始めている。
 主人公は華桜女子高校2年の榎稲穂。動植物・昆虫博物館の館長の娘であり、長すぎる前髪と白衣がトレードマークの彼女は、昆虫博士と呼ばれるほどに虫に関する豊富な知識を持ち合わせており、その知識を駆使して現代の都会に潜む様々な害虫達にまつわるトラブルを解決していく、という物語。
 稲穂は虫取り名人でもあり、虫が相手の時の反射神経は神業級なのだが、学校の(友人の里美あずさの紹介で入部した)テニス部ではなぜか全くボールに反応出来ない。そんな彼女が所属するテニス部員にスポットをあてた物語としては、Act17「勝利のマゴット治療」(5巻収録)などが挙げられる。
 稲穂はどんな害虫達に対しても一つの生命として尊重する心を持ち、生態系全体のバランスを考える視点を持つが故に、虫を安易に駆除することを嫌い、人と虫が共生(あるいは住み分け)していく道を探そうとする。それがどれだけ現実味のある物語なのかは門外漢の身にはさっぱり分からないが、少なくとも素人の私を「なるほど」と納得させられるだけの説得力が稲穂の説明には込められており、メッセージ漫画としての切れ味は非常に鋭い。
 さすがにチャンピオンREDだけあって「ちょいエロ」描写も多く、また、(彼女のライバル達も含めて)女性中心で物語が進んでいくため、画面は常に華やかであり、だからこそ、彼女達を蝕む害虫達の恐ろしさがより強調され、それを解決する稲穂の知識と能力が際立つという構造になっている。まぁ、簡単に言うと、浮世離れしたインテリ女子高生は萌えってことですわ。