八神千歳『となりの聖くん』

となりの聖くん (ちゅちゅコミックス)

となりの聖くん (ちゅちゅコミックス)

連載:『ChuChu』(2006年)
単行本:小学館ちゅちゅコミックス(2006年) 全1巻


 小学館の低学年向け雑誌で活躍する八神千歳が、『ChuChu』の2006年2月号と3月号の二号にわたって描いた前後編作品。短編集の表題作として、「抱きしめたいっ!!」「HELP!」「センセイのひみつ。」と共に単行本化された。現在の作者は『ちゃお』にて『オレ様キングダム』を連載中。
 主人公は、テニス部の一年生・椎名恵。テニス部の先輩で、学園のアイドル的存在である聖准一に憧れの視線を向けつつ、彼の弟で無表情なクラスメートの聖准平の不可解な行動に悩む彼女が、ふとした契機から同時進行で(しかし全く異なる形で)この兄弟と接する機会が広がった結果、二人が彼女に対して抱いていた意外な感情を知ることになる、という物語。
 兄弟を相手にしたラブコメでは、「マイルド系の兄」と「ワイルド系orシニカル系の弟」という組み合せが王道であるが、本作品の場合、准一は典型的なマイルド系の優男なのだが、准平の方は一見するとシニカル系に見えながら、実はただ無表情なだけで、その内面が全く予想と異なるキャラであった、という点が本作品のキモであり、そこは非常に面白い。というか、正直言ってこの准平はかなり私の萌えツボだ(作者は兄の方が好きらしいが)。
 なので、キャラ萌え漫画としては(私の中では)高得点なのだが、ラブコメ漫画として見た場合、兄弟共に恵に対する感情の発現が唐突すぎて、やや困惑する。もっとも、その困惑感を読者と恵との間で共有させることを狙った上での演出と考えれば、それはそれでアリなのかもしれないが。
 テニス描写については、冒頭で恵の素振りや准一の練習の場面が描かれている程度。テニス部という設定自体にも「女子部の先輩の嫌がらせ」という演出装置として機能しているくらいで、物語的にはあまり深い意味はない。ただ、そんな些細な「日常風景」としてのテニスのフォームがソツなく丁寧に描かれている点は、私の中では結構な好印象ポイントかな。