惣領冬実『ピンクなきみにブルーなぼく』

ピンクなきみにブルーなぼく (2) (小学館文庫)

ピンクなきみにブルーなぼく (2) (小学館文庫)

連載:『ちゃお』(1984〜1988年)
単行本:小学館フラワーコミックス(1984〜1988年) 全8巻
    小学館文庫(2002〜2003年) 全4巻


 『ボーイフレンド』『MARS』などで有名な惣領冬実が『ちゃお』で描いた初期の代表作。当初は「愛して糸井センセ」&「いとしの糸井センセ」という二編の短編が描かれ、そこからスピンオフする形で本作品が描かれた(単行本ではこれらも本作品のプロローグ的な扱いで収録されている)。昨今の作者は『モーニング』にて『チェザーレ 破壊の創造者』を連載中。
 主人公は、聖カリスマ女学園高校の一年生・野々原なずな。従兄の糸井元春(「〜糸井センセ」の主人公)への憧れから同校に入学した彼女であったが、元春は学園内での彼女の立場を考慮して、彼女と距離を取ろうとする。そんな彼女が、隣の男子校である私立畜産農業高校の稲刈一伍(いねかり・いちご)と出会い、少しずつ恋心を芽生えさせていく、という物語。
 基本的には、天然乙女のなずなと、農業一筋の好青年な一伍を中心としたラブコメであるが、それと並行して周囲のサブキャラ達の恋物語も描かれる。ただ、どちらかと言えば恋愛よりもコメディの印象の方が強く、しかもそのセンスが独特の方向にぶっ飛んでいるため、客観的な評価は難しい。
 そして物語の中盤では、なずながテニス部への入部を希望し、なりゆきで部長の法連寺草子と対決する、という話が描かれる。草子は「白鳥夫人」の異名を持ち、その名の通り白鳥のチュチュ&トウシューズでテニスをするキャラなのだが、この程度の変人設定くらいで嫌悪感を示す人には、おそらくこの漫画は向かないだろう。それくらい奇人変人揃いの物語なのである。
 絵的には当初は通常頭身の少女漫画だったのだが、物語が進むにつれてなずなの幼児化・三頭身化が進み、物語の暴走具合もエスカレートしていくのだが、作品全体を通じて、なずなの初々しい恋心と不条理なギャグのコンビネーションという軸はブレていない。いずれにせよ、現在の作風からは全く想像のつかない、当時の作者ならではの不思議な魅力に溢れた作品である。