柊あおい『銀色のハーモニー』

銀色のハーモニー 1 (集英社文庫(コミック版))

銀色のハーモニー 1 (集英社文庫(コミック版))

連載:『りぼん』(1990〜1992年)
単行本:集英社りぼんマスコットコミックス(1990〜1993年)
    集英社文庫コミック版 全4巻(2002年)


 『星の瞳のシルエット』『耳をすませば』(1995年にはアニメ映画化)などで有名な柊あおいの、もう一つの代表作。『りぼん』で二年間にわたって(途中、作者の交通事故による休載を挟みつつも)連載された。近年の作者は寡作ながらも『YOU』などで作品を掲載している。
 主人公は、中学二年生の結城琴子。親友の小池鈴子と同じクラスになれたことを喜んでいた彼女が、図書委員の仕事の最中に、向かいの音楽室から聞こえてくるピアノの音に聞き惚れながら、昔、ピアノを習っていた頃を思い出す場面から物語は始まる。その後、彼女はサッカー部員の霧島海(うみ/通称:カイ)と出会い、少しずつ彼に心惹かれていくのであるが、その過程で、彼が弾くピアノ曲トロイメライ(夢)」と出会うことになる。
 内気で平凡な少女と、文武両道でピアノも得意な美少年という、実に少女漫画らしい組み合わせの恋物語である。作中の演出を通じて「誰が誰に想いを寄せているか」が読者には分かりやすく描かれているのだが、登場人物の大半が「他人の想い」に鈍感な面々ばかりのため、なかなか恋が進展しない(その「もどかしさ」こそが王道少女漫画としての本作品の魅力である)。
 そんな中で、例外的に鋭い洞察力を持ち、彼女等を影で支えているのが、琴子・鈴子・海の友人で、テニス部員でもある学年一の秀才・神崎研一郎である。彼は常に憎まれ口を叩きながらも、自分の想いは決して表に出さず、様々な誤解で何度も壊れようとする琴子達の人間関係を修復しようと尽力する。テニス部の場面は断片的にしか描かれないが、このポジションに「テニス部所属の秀才」を持ってくる辺りが、本作品の独特のセンスと言えよう。
 やわらかで繊細な絵柄、心に響くモノローグ、絶妙な伏線など、本作品の魅力を挙げ始めればキリがない。惜しむらくは、重要な役割を担う筈だった某人物が、有耶無耶な立場のまま消えてしまったことだけが、唯一の難点かな。