星里もちる『危険がウォーキング』

初出:『プチアップルパイ』『少年キャプテン』(1986〜1989年)
単行本:徳間書店キャプテンコミックス(1987〜1989年) 全4巻
    エンターブレイン Beam Comix ワイド版(2001年) 全3巻


 『りびんぐげーむ』などで有名な星里もちるのデビュー作。当初は徳間書店の『プチアップル・パイ』にて第1〜4話が描かれ(後に描き下ろしの「5話」を加えて「1巻」として発売)、その後、同社の『少年キャプテン』に移籍して、続編(2巻以降の話)が描かれた(話数は「第1話」にリセット)。近年の作者は『光速シスター』(ビッグコミックスペリオール)や『ハルコの晴れの日』(まんがタイムオリジナル)などを連載中。
 主人公は、北海道から東京の中学に転校してきた少女・岡原佳枝(かえ)。東京の暑さに馴染めずに苦しんでいた彼女であるが、彼女の流す汗はなぜかニトログリセリン(に近い成分?)で出来ており、30度を超えるとその汗が爆発するという特異体質であることが発覚してしまう。周囲の人々に迷惑をかけないよう、細心の気を配る彼女であったが、それでも行く先々で、様々なトラブルを引き起こしてしまうことになる。
 そんな佳枝を支えるのが、転校直後から彼女を明るく受け入れてくれた、同じクラスのテニス部員・牧野いくろうである。佳枝は彼の脳天気な素振りを「優しさの照れ隠し」と評しているが、確かにそうした側面もある一方で、彼自身は非情に真摯に「笑い」を追求する芸人志望の少年でもあり、彼の語る「笑い」論は、なかなかに含蓄を感じさせる。
 そして(1巻描き下ろしの)第5話では、そんな彼がテニス部員として試合に出場する話が描かれる。作中でも、彼は「テニスをするイメージではない」と言われているが、その才能はキャプテンやマネージャーにも高く評価されており、そんな彼が独自のプレイスタイルで試合に臨む展開が描かれる。正直、「なんでそれで勝てるのか?」はよく分からないままなのだが、「自分らしくプレイするのが大切」ということなのだろう、きっと。
 個人的には、途中から登場する眼鏡少女・園田その子がお気に入り。佳枝とは異なるタイプの特異体質であるが故に、様々に思い悩みながら生きてきた彼女が、佳枝やいくろうと出会って、少しずつ変わっていく展開が面白い。また、恋愛漫画としても、実は影の主人公は彼女なのではないか、と思わせるくらい、後半における彼女の物語は光っている。最後は、もう少しはっきりさせて欲しかったな、とも思うのだけどね。