楠桂『乙女怪談』

連載:『Comic Marble』(2007年〜2009年)
単行本:竹書房Bamboo Comics Marble Select(2009年) 全1巻


 『八神くんの家庭の事情』や『鬼切丸』などで有名な楠桂が、竹書房の『Comic Marble』(元々は『近代麻雀』の増刊)の創刊号〜最終号(Vol.12)にて描いた作品。近年の作者は『サンデーGX』などで活躍中。
 主人公は、若い男性の高校教師・咲坂(さきさか)。彼の勤務する学校には、なぜか校内の至る所に女子の幽霊が出没し、それらは総称して「花子さん」と呼ばれている。彼は毎回、様々な場所で様々な花子さんと遭遇し、彼女達が幽霊化する契機となった悩みを聞かされ、当初はその悩みを解決して成仏させようとするのだが(その顛末は話によって全く異なるのだが)、結局、いつも幽霊達は成仏せずに、以後も彼にまとわり続けることになる。
 そんな「花子さん」達の一人として、第5話では「テニスコートの花子さん」が登場するのだが、金髪縦ロールのお嬢様口調という、明らかに竜崎麗香をイメージした特徴のキャラではあるものの、その中身は全くの別人で、よくいる「お蝶夫人のパロディキャラ」を更にパロディ化したような性格である。そして彼女のエピソード自体、本来の悩みと全く関係のない方向で、新たな執着心を植え付けられるという、実に奇妙な物語構成となっている。
 正直、20年以上前の楠桂(というか、大橋姉妹)の作品を読んでいた身としては、最初に表紙のカラーイラストを見た時に「今はもう、こんなに絵柄が変わってしまったのか」と愕然とさせられたのだが、実施に中身を読んでみると、あの独特の「脈絡のないまったり感」は健在というか、根本的な部分はあまり変わっていなかったことに、ちょっと安堵した。
 私的には、この人は本作品のようなコメディよりも、シリアスなホラーの方が似合うと思うのだが(逆に、大橋薫はコメディの方が面白い)、それでもまだこの作風で新作を描き続けているということは、この独特の奇妙な楠ワールドの信奉者は、今でも決して少なくないということなのだろう。