塀内夏子(真人)『フィフティーン・ラブ』

フィフティーン・ラブ (1) オンデマンド版 [コミック] (少年マガジンコミックス)

フィフティーン・ラブ (1) オンデマンド版 [コミック] (少年マガジンコミックス)

連載:『週刊少年マガジン』(1984〜1986年)
単行本:講談社少年マガジン・コミックス 全11巻(1984〜1986年)
    講談社KCスペシャル 全6巻(1991〜1992年)


 1980年代を代表するテニス漫画の一つ。映像化こそされなかったが、当時としては異例のイメージアルバム(LP)発売に至るほどの人気作であった。作者の塀内夏子は、当時は弟の名を借りて塀内真人と名乗っていたが、これは「少年誌では女性漫画家は敬遠されやすい」という配慮によるものらしい。本作品でスポーツ漫画家として一定の評価を得た彼女は、続く『オフサイド』の大ヒットにより、マガジンの看板作家の一人としての地位を確立する。
 物語は、中学陸上界のホープであった主人公・松本広海(通称:ヒロ)が、なりゆきでテニス界に身を投じ、やがてカリフォルニアに留学してジュニア大会を転戦、最終的にはウィンブルドンを舞台に激戦を繰り広げる、というサクセス・ストーリー。日本人相手の試合は序盤のみで、物語上の主要なライバルはほぼ全員が外国人なので、少年誌における一般的な「部活漫画」とは一線を画している。
 主人公のヒロは、一見さわやかな風貌だが、実はかなり我が強く、言葉遣いも結構荒い。その意味では、一見野生児だが実は意外に優等生な『テニスボーイ』の飛鷹とは非常に対照的なのだが、これはシングルス主体の選手とダブルスに強い選手の違いであるとも言えよう。ろくにキャリアもないまま一人で海外で成り上がっていくことが出来るのは、やはりそれ相応の度胸の持ち主でなければならない、ということであろうか。
 テニス描写は非常にオーソドックスで、あまり非現実的な魔球も存在しない(後半ではヒロミ・スペシャルという必殺技を編み出すが、魔球と言うほどでもない)。故に、今でもリアル志向のテニスファンの間では特に高く評価されている。
 正直、素人の成長物語としてはスケールが大きすぎる(というか、成長が早すぎる)感は否めないが、全編通じて「中だるみ」も「尻すぼみ」もない密度の濃い物語が展開されている点はテニス漫画としては貴重であり(なぜかテニス漫画には、中途半端な形で終わってしまうパターンが多い)、各キャラクターの心情描写も実に繊細で、読者を惹き付けて離さない。幅広い層にお勧め出来る普遍的な名作であると言えよう。