浦沢直樹『Happy!』

Happy! (1) (ビッグコミックス)

Happy! (1) (ビッグコミックス)

連載:『ビッグコミックスピリッツ』(1994〜1999年)
単行本:小学館ビッグコミックス 全23巻(1994〜1999年)
    小学館BCスペシャル 全15巻(2003〜2004年)


 『YAWARA!』『MASTERキートン』『MONSTER』『20世紀少年』などで有名な浦沢直樹の描いたテニス漫画。浦沢漫画の中では、連載期間の長さの割に知名度が低く、長らく映像化されない不遇な作品だったが、2006年春に相武紗季主演で2時間ドラマが放映された。
 まずこの物語の特徴は、タイトルに反してひたすら「不幸」を背負わされる主人公・海野幸(みゆき)の哀れな境遇にある。兄の残した多額の借金を帰すために、プロのテニス選手となって賞金を稼ごうとするのであるが、その行く先々で騙され、利用され、陥れられ、誤解され、いくら頑張っても(極一部の理解者達を除いて)誰も認めてくれない。そんな実に重苦しい物語が終盤まで延々と続くため、『YAWARA!』のようなノリを期待していた読者は、途中で辟易してしまう。特に、ライバルの竜ヶ崎蝶子の性悪さは別格で、彼女に比べれば本阿弥さやかがいかに「可愛い女性」だったかが思い知らされる。
 ただ、さすがに天下の浦沢直樹だけのことはあり、そのような重苦しい展開の中で次々と襲いくる危機の描写は実にスピーディーで、決して読者を退屈させることはない。正直、雑誌連載時には私も「くどいよなぁ、この話……」と思っていたのだが、単行本で読んでみると意外にスムーズに読み進める。そして、そのような辛い展開が最後まで続いたからこそ、最後に到達する「幸せ」の重みを実感出来るのである(とはいえ、桜田のラストに関してはあまりに唐突すぎて、納得していない読者も多いようだが)。
 テニス描写は、序盤でこそ「ロイヤル・フェニックス1号」という魔球が登場するものの、基本的には見た目の派手さよりも駆け引きを重視した描き方と言える。ただ、全体的に「0-5からの逆転劇」が多すぎるので、終盤はややマンネリ気味になるのも事実である(まぁ、これは他の多くのテニス漫画にも言えることなのだが)。
 正直、浦沢作品にしては完成度が高いとは言えないし、人によって好き嫌いも分かれるとは思うのだが、それにしても世論のこの作品に対する評価は低すぎるのでは? と私は思う。まぁ、そのような世間の悪評の中で僅かな支持者のみに愛されるというのも、この作品らしくて良いのかもしれないが。