佐伯かよの『スマッシュ!メグ』

スマッシュ!メグ (1) (秋田文庫)

スマッシュ!メグ (1) (秋田文庫)

連載:『週刊少女コミック』(1980〜1982年)
単行本:小学館フラワーコミックス 全6巻(1981〜1982年)
    秋田書店秋田文庫 全3巻(2001年)


 近年は『緋の稜線』などのレディースコミックで有名な佐伯かよの新谷かおるの奥方)の初期代表作。ちなみに、上記の文庫版の表紙は本編の絵柄とは全く異なるので、から、「作品リスト」→「2」→「スマッシュ!メグ」で旧版の表紙を確認することをお勧めする。
 この物語の魅力は、なんと言っても個性的な脇役陣である。テニス一家に生まれながらも才能を開花出来ずにいる主人公・朝比奈恵(通称:メグ)の前に、アメリカ帰りの謎の女性・穂村忍が現れたところから物語は始まる。メグにとって忍は「憧れのお姉様」的存在となるのだが、一方で忍もまたメグとの出会いによって自らの「過去」を克服するきっかけを掴んでいく。そして、この二人に触発されてテニス界に身を投じる不良少女・滝沢理絵や、公私共にメグの最大のライバルとなる白鳥麻由子など、魅力的なサブキャラ達が次々と登場し、引っ込み思案な主人公以上に彼女達が物語を引っ張っていく。
 作者自身、いつの間にか実質的な主人公が「忍と理絵」になっていた、ということを後に述懐しており(講談社ポケットKC『佐伯かよの自薦集1』収録「スマッシュ!メグ秘話」参照)、やがてこの二人は作者の別作品の主人公として転生することになる。
 そして、この作品のもう一つの魅力が、彼女達の繰り出す多彩な必殺技である。球と空気の摩擦から炎を生み出すファイヤー・ボール、相手の返球を全て手元に引き寄せるブーメラン・ボレー(現代語訳:手塚ゾーン)、レシーバーの手首を一撃で粉砕する370km/hサーブなど、どっからどう見てもツッコミ所満載な魔球の連発は、まさに正統派少年漫画の展開である。特に、最後の5対5対抗戦は、テニス漫画史上最高の名勝負の一つと言っても過言ではない。
 まぁ、細かい部分で粗が色々あるのは事実ではあるが、そんなことを気にさせずに読者を惹きつける魅力が本作品には溢れている。少女漫画の繊細な描写と少年漫画の爽快な展開を持ち合わせた本作品は、テニス漫画の一つの可能性の到達点を体現していると言えよう。