まさき輝『おはよう空!』

連載:『別冊少女フレンド』(1981〜1983年)
単行本:講談社コミックスフレンドB 全6巻(1981〜1983年)


 現在は、あおば出版社などでレディースコミック作家として活躍するまさき輝(あきら)の少女漫画家時代の(おそらく)最大のヒット作。ちなみに、講談社の少女漫画誌にはなぜかテニス漫画は少なく、現時点では本作が(おそらく)最長連載作品である。
 本作品は、なりゆきでテニス部に入部した中学一年生の主人公・一ノ瀬千夏が、数々の試練を乗り越えてその才能を開花させ、やがて高校に進学して日本を代表する選手にまで成長する過程を描いた物語である。序盤は下町人情コメディー的なノリであったが、中盤からは様々な形で「自分がテニスを続けること」に対する苦悩が彼女を襲うようになり、それを一つ一つ克服していく心情描写が物語の中心となる。
 そんな彼女の成長を後押しするのが、部活の先輩の大西貴恵、同地区の天才・風間直、アメリカ帰りの(千夏と深い因縁を持つ)片桐薫、といったライバル達と、その傍らで彼女を見守り続ける高柳俊&戸沢良という男性陣の存在である。『エースをねらえ!』のような高度に抽象化された説法ではなく、より具体的に自然な言葉の積み重ねによって精神的な「壁」を乗り越えていく描写には、読者としても共感しやすい。
 そのような展開を反映してか、この物語におけるテニス描写は非常にメンタルを重視した描き方になっている。それを象徴するのが、大門さと子というキャラの存在である。彼女は「勝つために、反則スレスレの行為を続けて相手の心理を乱す」という戦法を得意とした選手であり、一般的なテニス漫画では一回限りの悪役で終わりそうなキャラなのだが、なんだかんだで物語の最後まで(プレイスタイルを変えないまま)千夏達のライバルとして登場し続ける。彼女の存在こそまさに、試合中の精神戦の重要性を主人公&読者に教えるためのエッセンスなのである。
 残念ながらまだ文庫版も愛蔵版も発売されていないので、読むには古本で購入するしかないのだが、80年代少女漫画の独特の「淡い描写」の価値が分かる人には、特にお勧めしたい作品である。