宗美智子『はずんでイッキ!』

連載:『週刊マーガレット』(1985〜1986年)
単行本:集英社マガーレットコミックス 全7巻(1985〜1987年)


 近年は秋田書店にて、西村京太郎の『十津川警部シリーズ』などのミステリー漫画や『ブラックジャック』のリメイク版などを執筆している宗美智子のマーガレット時代の代表作の一つ。私にとっては、前述の『スマッシュ!メグ』『おはよう空!』と並ぶ「80年代三大テニス少女漫画」の一つである。
 テニス漫画にしては珍しく、この物語の舞台は近畿地方に設定されている(その割に、大半のキャラが標準語なのだが……)。主人公は、交通事故で他界した姉の遺志を継ぎ、テニスの名門・奥原学園中等部に転入した塩崎いつみ(通称:イッキ)。高等部の先輩である宮下陽一の指導によって実力を開花させ、「四天王」を初めとする数々のライバル達との戦いに打ち勝っていく物語である。
 イッキは典型的な「元気系」の主人公であり、物語の途中で色々と悩みはするものの、それを長期間引きずることなく、すぐに気持ちを切り替えられる精神的な強さの持ち主でもあるため、読み手にあまりストレスを与えない。一方、最大のライバルとなる弥尾瀬インディラは非常に深い「影」を背負った存在であり、物語終盤では彼女の精神面の描写が中心となっていく。
 ちなみに、作者は以前にもテニス漫画を描いていたこともあって(『アドバンテージ昇悟!』『ふたりのシーズン』)、試合描写は非常に巧みである。低身長ながらも、脚力とジャンプ力を武器にコート上を跳ね回るイッキに対し、“ストロークの女王”白田妃富美や、“コートの破壊者”鈴木淳子など、個性的なプレイスタイルのライバル達を、魔球や必殺技を用いることなく描き分けており、コマ割のテンポも実に上手い。特に、物語上重要な局面となった四試合は、100頁以上費やしながらも決してダレることなくその試合に読者の目を釘付けにさせる見事な構成となっている。
 マーガレットのテニス漫画の中では、単行本の巻数の割に知名度が低い不遇の作品だが、スポーツ漫画が好きな人なら、古本屋をハシゴしてでも手に入れる価値のある名作である。