石渡治『LOVe』

LOVE (TOURNAMENT1) (少年サンデーコミックス)

LOVE (TOURNAMENT1) (少年サンデーコミックス)

連載:『週刊少年サンデー』(1993〜1999年)
単行本:小学館少年サンデーコミックス 全30巻(1994〜1999年)


 石渡治のボクシング漫画『B.B.』の続編として描かれた、B.B.の娘の物語。ただし、『B.B.』の主要登場人物はあくまで最終盤で登場するのみなので、『B.B.』を知らない読者でも問題なく読める(実際、私も『B.B.』は殆ど読んだことがない)。ちなみに、30巻という数は『テニスの王子様』に抜かれるまでテニス漫画としての最長記録であった(連載期間としての最長記録は、『しゃにむにGO』の11年)。
 主人公・高樹愛(通称:ラブ)は12歳の少女でありながら、年齢と性別を詐称してテニスの名門の男子校・黒百合高校に入学し、部活の先輩やライバル校の猛者達と激しい死闘を繰り広げる、というのが物語の本筋なのだが、実はこの「本筋」が始まるのが5巻からで、そこに至るまでの「序章」が結構長い(まぁ、それはそれで、彼女が男子テニス界に挑戦する理由となる非常に重要なエピソードなのだが)。
 そして、本編が始まってからも、登場キャラ数が多いこともあって、(試合/日常問わず)全体的に物語展開は遅いが、決してダラダラと進行している訳でもない。実際、数多くのキャラ達を(途中で誰かを置き去りにすることなく)きっちり最後まで描き切っている辺りは実に見事であり、途中で中だるみすることもなく、最後まで激しい緊張感を持続させた物語構成も圧巻である(ただ、個人的には「最終回」は蛇足だったかな、とも思う)。 
 テニス描写においては全編通じて魔球・必殺技のオンパレードで、特にラブの用いる海洋生物の名前を用いた魔球(「イルカ」「ラッコ」「ペンギン」etc.)は実に痛快であり、エンターテイメントとしての「テニス漫画」の魅力を全面に押し出した作風である。そして、上記の通り一試合ごとの描写がかなり濃密なため、試合中の選手の疲労感がダイレクトに読者にも伝わってくる。
 とりあえず、絵柄にも作風にもクセの強い人なので好き嫌いは分かれるであろうし、かなり長い物語なので敬遠したくなる気持ちも分かるのだが、テニス漫画としては非常に完成度の高い作品なので、ぜひ一度読んでみることをお勧めする。