中垣慶『スラップスティック・ミルキィ先生』

連載:『少年KING』(1983〜1986年)
単行本:少年画報社ヒットコミックス(1983〜1986年) 全7巻


 今は亡き『少年KING』(『週刊少年キング』の廃刊後に創刊された月二回の漫画雑誌)に掲載された中垣慶のマルチ・スポーツ漫画。ちなみに、単行本の表紙は作者の公式サイトの「単行本ギャラリー」にて確認出来る(「中垣慶 KeiNakagaki」で検索すれば容易に発見可能)。近年はあまり目立った活躍のない作者だが、現在、執筆復帰に向けて活動中らしい。
 スポーツ万能の体育教師である主人公・篠塚深雪(通称:ミルキィ)が、赴任先の学園で、テニス部を初めとする全ての運動部のコーチを任命され、奮闘する物語。当初は読み切り版(作者のデビュー作/第1巻に掲載)として大学一年生の頃の彼女の話が描かれた後、「教育実習編」(第1巻)を経て、第2巻以降から上記の本編が始まる。一応、形式的にはマルチ・スポーツ漫画だが、物語の大半はテニス部を中心として展開し、主要登場人物の大半もテニス部員なので、実質的にはほぼテニス漫画であると言って良い。
 一応、少年誌の漫画ではあるものの、全体的な雰囲気は(絵柄を含めて)どこか少女漫画的で、それでいて(女性主人公でありながら)男性視点中心の心情描写が非常に上手い。主人公も含め、ある意味でステレオタイプな「理想像」に近い設定も多いが、それらの「理想的に魅力的なキャラクター」達が、嫌味無く活き活きと描かれているため、全体的な雰囲気は非常に心地良い。
 テニス描写に関しては、ミルキィの超人的な運動能力などを考えると「リアル」とは言い難いが、基本的には地味ながらも丁寧に、それぞれの選手の個性を表現しながら試合風景を描いている。ミルキィには「スポーツを理屈付けるのは苦手」と言わせる一方で、さりげなく物語全体を通じてテニスの面白さをロジカルに伝えている点が心憎い。
 少女漫画の淡い雰囲気と、少年漫画の爽快さを合わせ持ったこの作者の独特の作風は、「80年代的」という言葉だけでは表現出来ない唯一無二のスタイルだと私は思う。掲載誌自体がマイナーだったこともあり、復刊の予定が全く無さそうなのが非常に惜しい、スポーツ漫画史に残る傑作である。