麻原いつみ『DOUBLES』

Doubles! ダブルス コミックセット (卓球王国コミックス) [マーケットプレイスセット]

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連載:『ちゃお』(1986年)
単行本:小学館フラワーコミックス(1986〜1987年) 全3巻


 『炎はとまらない』の作者である麻原いつみが描いたもう一つのテニス漫画。物語設定としては本作の方が高年齢層向けのように思えるのだが、その割に掲載誌が『ちゃお』というのが不思議な話である。まぁ、『ぴょんぴょん』を吸収合併する前なので、おそらく今とは雑誌の雰囲気も違ったのであろう。
 主人公・織尾百合(おりお・ゆい)は、父&姉と共にニューヨークで暮らす15才の少女。自分の父と、幼馴染みの高城早人(たかぎ・はやと)の母とが再婚することになり、微妙に人間関係がこじれてナーバスになっていた時に、早人の双子の弟と名乗る隼(じゅん)が現れるところから物語は始まる。百合、早人、隼の三人はテニス選手なのだが、本編中でのテニス自体の描写は少なく(特に百合の試合は殆ど描かれていない)、どちらかというと複雑な家族関係を巡る人間ドラマの方が物語の中心となっている。
 ちなみに、「ダブルス」というタイトルだが、実際には本編ではダブルスの試合の場面は殆ど描かれていない。ただし、物語の終盤において「謎」を解く上での一つの重要な鍵となる要素ではある。また、「双子」を初めとする様々な意味での「二人」というニュアンスを込めたタイトルであるとも言えよう(ただし、双子は英語では「twins」である)。
 そして、本編中で特に異彩を放っているのが、両家の一族以外の唯一のメインキャラである冬峨喬子(とうが・きょうこ)という女性である。日本の女子テニス界の女王として君臨する彼女は、他のどのテニス漫画のキャラにも、どの実在の選手にも似ていない(しいて言うならナブラチロワ?)、唯一無二の圧倒的な存在感の持ち主である。善人でも悪人でもなく、周囲の声を気にせず自分の生き方を貫く彼女の存在こそが、この物語における最大の魅力であると私は思う。
 正直、「テニス漫画」としては試合描写が淡白で、少々物足りない感は否めないが、普通に一つの物語として読む分にはそれなりに深みもあって面白いので(最後のオチは正直どうよ? とも思ったが)、もし古本屋で見かけたら一度手にとってみることをお勧めする。