中原裕『人気者でいこう!』

連載:『週刊少年サンデー』(1989〜1990年)
単行本:小学館サンデーコミックス(1990年) 全5巻


 『ぶっちぎり』『タフ』などの破天荒なスポーツ漫画で有名な中原裕の描いたテニス漫画。ちなみに「中原裕」とは、中澤秀樹と田島裕之の二名によるユニット名、らしい。作者は後にスピリッツに移って駅伝漫画『奈緒子』を長期にわたって連載して人気を確立。現在は同誌にて『ラストイニング』を連載中。
 主人公は、土建屋の次男坊で中学一年生の鶴橋雄大。典型的な悪ガキで、行く先々でトラブルを引き起こす鶴橋と、いつも彼に巻き込まれる学園理事長の息子・殿村智彦(通称:トミー)の二人がテニス部に入部し、先輩や顧問との確執を経験しながら少しずつ成長していく、という物語。序盤は、ひたすらワガママ放題の鶴橋が引き起こすドタバタ劇がメインであったが、中盤からは徐々に彼がテニスにのめり込んで行く姿が描かれるようになる。
 テニス描写に関しては、鶴橋が全くのズブの素人のため、ルールを含めて一から基本を説明しているので、何も知らない読者にも読みやすい。その上で、鶴橋とトミーがそれぞれの特性を生かした奇策で、経験不足を補いながら戦っていく姿はなかなか爽快である。ただ、どちらかというとテニスそのものよりも、「中学校の部活動」の独特の雰囲気を描くことに重点を置いた作品と言える。
 ちなみに、絵柄は『奈緒子』以降の洗練された画風とは程遠い、まだ未完成でクセの強いタッチなので、人によってかなり好き嫌いは分かれると思う。少なくとも、いわゆる「美形キャラ」はほぼ全く登場せず、数少ない女性キャラにも殆ど出番がないので、「テニス漫画=華麗な作品」という先入観を持つ人には楽しめない作品であろう(ある意味、そういった先入観に対するアンチテーゼ的作品とも言える)。
 とにかく主人公の鶴橋がアクの強いキャラなので、その独特のノリについていけないと読むのが辛いとは思うが、逆に言えば、普通のテニス漫画のテンポを「単調」と感じる人々には、かえって読みやすい作品かもしれない。色々な意味で「異色のテニス漫画」だということを踏まえた上で読んでみることをお勧めする。