藤原ゆか『スマッシュ1(ワン)』

スマッシュ1 (りぼんマスコットコミックス)

スマッシュ1 (りぼんマスコットコミックス)

連載:『りぼん』(2005年)
単行本:集英社りぼんマスコットコミックス(2006年) 全1巻


 2002年にデビューした『りぼん』のホープ藤原ゆかの初連載作品。ちなみに、彼女は以前に『カッとび!!』の最終回を手伝ったこともあるらしい(なお、『カッとび!!』のSachiyoと彼女は同じ愛知県の出身である)。現在は『ダンシングベイビーかりん』を連載中。
 小学生時代はジュニア選手として無敵を誇りながらも、中学入学後にテニスを捨ててしまった天才少女・永原美羽(ながはら・みう)が、高校で出会ったテニス少年・辻本一誠(つじもと・いっせい)のダブルス・パートナーとしてテニスの世界に舞い戻り、再び輝きを取り戻していく、という物語。全6回・単行本1冊のみの作品ではあるが、これは昨今の『りぼん』における若手の初連載作品としては決して短くはなく(通例は三回前後で終了するらしい)、読者の反響の強さ故に当初の予定よりも少し長く続いたのだそうな。
 そのせいか、後半から急に物語のスケールが大きくなり、かなりブッ飛んだ設定も出てはくるものの、決してそれまでの物語の雰囲気を壊すことなく(むしろ、序盤の伏線を綺麗に拾う形で)描かれており、物語全体の構成もきちんと取れている。ただ、それぞれのキャラもエピソードも魅力的だけに、もう少しじっくり時間をかけて描けば更に面白くなっただろうに、と思うと、少々惜しい気もする(まぁ、短期連載故のテンポの良さと引き替えになってしまう可能性もあるので、難しいところなのだが)。
 テニス描写に関しては、話数の都合もあってあまり濃密に描かれているとは言い難いが、ほどほどにトンデモ技を織り交ぜつつ軽快なテンポで描かれているので、それはそれで悪くない。ただ、絵柄はバリバリの「現代の少女漫画」なので、近年流行の画風に慣れていない人には、ちょっと違和感があるかもしれない(正直、最初は私も少しあった)。
 全編通して、少女漫画の割にあまり露骨な恋心が描かれることもなく、あくまでテニスを通じて自然に深まっていく美羽と一誠の関係は、実にさわやかで好感が持てる(そしてこれは「混合ダブルス」が存在するテニスならではの手法でもある)。ある意味、スポーツ漫画における恋愛像の一つの理想型を体現した作品、と言っても過言ではなかろう。