近藤巧治『カモン!スマッシュ建太郎』

カモン!スマッシュ建太郎 (ジャンプコミックス)

カモン!スマッシュ建太郎 (ジャンプコミックス)

連載:『月刊少年ジャンプ』(2003年)
単行本:集英社ジャンプコミックス(2003年) 全1巻


 月ジャンで全五回にわたって連載されたテニス漫画。作者の近藤巧治は、第44回手塚賞で佳作を獲得したことを契機にプロデビューし、2001年にはカート漫画『FLYING LAP』を発表。本作品は二本目の連載作品となる。
 中学の軟式テニスで四国ナンバー1の実力者と言われていた主人公・真中建太郎が、進学先の高校に軟式テニス部がないという理由で硬式に転向し、軟式とのギャップに苦戦しながらも軟式出身の利点を生かして戦い続ける物語。本編で登場する市町名はどうやら架空の地名のようだが、瀬戸大橋が背景に描かれているところから察するに、おそらく香川県を想定していると思われる(ただし、台詞は全員標準語)。
 本作品の最大の特徴は、多くのテニス漫画に見られる「硬式至上主義」や「クラブ至上主義」に対するアンチテーゼにある。「硬式の方がレベルが上」というライバルに対して「上とか下とか関係ないっスよ。同じテニスじゃないですか」と言い返し、「部活でやってる奴のレベルなんざ、低くて話になんねえよな」というテニスクラブのエリートに対しても「部活のレベルは、低くなんかないっスよ」と言い放つ。現実に日本のテニス人口の大部分を支えている軟式やテニス部出身の人々の心境を代弁する彼の台詞は、実に爽快である。
 「雑草少年がエリートに立ち向かう」という構図はスポーツ漫画における一つの王道の筈なのだが、意外なことに(硬式よりも庶民的な)軟式出身の主人公というのはテニス漫画において非常に少ない。その意味で、本作品はテニス漫画の新たな可能性を切り開くことに繋がる秀逸な着眼点に基づいていると言えよう。
 しかし、残念ながら本作品は、せっかく役者が揃って物語が面白くなりかけてきたところで、いきなり終わってしまう(おそらく打ち切りであろう)。確かに、まだ色々と未完成な部分もあったし、ジャンプのスポーツ漫画としては地味すぎたのかもしれない(むしろ月マガあたりの方が受け入れられたかもしれない)。それでも、歴代の月ジャンのテニス漫画の中では最高傑作と言っても良い作品だと私は思うので、書店で見かけたら是非手にとってみてほしい。