佐々木潤子『風の生まれるところ』

連載:『マーガレット』(1989〜1990年)
単行本:集英社マーガレットコミックス(1989〜1990年) 全5巻


 『エース!』『BON BON』などで有名な、『マーガレット』におけるスポーツ漫画の第一人者・佐々木潤子が描いたテニス漫画。なお、一巻の表紙(および第一話の一部)はhttp://www.h5.dion.ne.jp/~junko/の「Comic List」→「集英社発行」で確認出来る。最近の作者は主に『office YOU』を中心に活動中。
 主人公である15歳のテニス少女・柳瀬深雪(やなせ・みゆき)が、18歳のプロ選手・三崎大樹(みさき・だいじゅ)の助言を受けながら国内外の様々な大会を転戦し、かつて天才選手と言われた祖母・日野今日子の手がかりを探していく、という物語。ちなみに、タイトルの「風のうまれるところ」とは、高村光太郎の詩「雷獣」の一節であり、本編中でも頻繁に引用されている。
 本作品の最大の魅力は、なんといっても実にきめ細かいテニスの試合描写である。全編通じて、あくまでもオーソドックスにテニス本来の「駆け引き」や「精神戦」の面白さがじっくりと描かれており、それぞれの試合が非常に読みごたえがある。また、本編中で実在の選手の発言を引用する場面も多く、かなりテニス・ファンを意識した作風となっている。
 ただ、一方でもう一つの軸である筈の祖母の過去を巡る因縁に関しては、やや描写不足のように思える。一応、最終巻でタネ明かしはされるのだが、今一つ血縁関係がよく分からないまま説明が終わってしまっており、微妙に消化不良感が残る(異父兄弟なのか、養子に出されたのか、など)。その他の場面でも、この人の台詞回しやコマ割はやや独特なテンポなので、最初は物語描写が少し分かりにくいと感じるかもしれない(ただし、しばらく読みすすめれば気にならなくなるレベルではある)。
 しかし、純粋な「テニス漫画」としての完成度はマーガレット史上でも最高レベルであるし、深雪のライバル達もそれぞれに選手としての個性の強い華のある面々なので(サバチーニをモデルとしたキャラなども登場する)、試合の場面だけで十分に読者を惹き付ける魅力を持っている。本格的な王道テニス漫画を読みたい人には、強くお勧めしたい作品である。