佐野とまと『ときめいてスマッシュ』

連載:『週刊マーガレット』(1981年)
単行本:集英社創美社)マーガレットレインボーコミックス(1982年) 全2巻


 1980年代前半に『週刊マーガレット』などで活躍した佐野とまとの代表作の一つ。作者は他に『おじゃまな関係』『勇太にステップ』などの単行本も出しているが、80年代後半以降は消息不明。ちなみに、今回は残念ながらamazonの単行本データも検出されなかった。
 「JJテニスアカデミー」に所属するテニス初心者の主人公・滝かの子が、全国選手権優勝の経験も持つアメリカ帰りの若手有望選手・陣内六(ろく)に才能を見込まれ、ダブルスパートナーに指名されるところから物語は始まる。テニス選手としての経験不足を、脚力と根性で補いながら破天荒な戦法で戦いながら、やがて日本を代表するプロ選手へと成長していく過程が描かれている。
 全体的に、鴨川つばめ風のギャグ調の絵柄なので(実際、作者は本来はギャグ漫画家らしいのだが)、どことなくコメディ風味が漂ってはいるものの、(時々、モブシ−ンの中で様々な「悪ノリ」が垣間見れたりもするのだが)作品の本質は、あくまで「スポ根本流」であるマーガレットのテニス漫画の伝統の中に位置付けられるべき正統派のスポーツドラマである。物語全体に占めるテニスの試合描写の割合も高く、全体的に緊迫感のある展開で読者を引き付ける。
 厳しくも暖かくかの子を指導しつつ、テニス選手として自身もストイックに鍛練を続ける陣内と、その陣内の足を引っ張らないよう、健気についていこうとするかの子の関係は、実にすがすがしく初々しい。この二人の師弟愛がどのように発展するか、というのも気になるところなのだが、実際にはあまり陣内のかの子に対する感情が描かれることもなく物語は終わってしまう(ただ、作品の本質を考えれば、それはそれで良かったのかもしれない)。
 今では絶版の上、作者の消息も不明なので再版の可能性も低く、なかなか入手が困難な作品ではあるが、他の少女漫画にはない独特の雰囲気を持ったテニス漫画なので、漫画喫茶などで見かけたらぜひ手に取ってみることをお勧めしたい。