小林紀子『風を追え!』

連載:『別冊少女コミック』(1992〜1993年)
単行本:小学館フラワーコミックス(1993年) 全2巻


 1990年代初頭の別コミにて連載されたテニス漫画。作者は、本作品の前後に『ジーンズのため息』『優しさを抱きしめて』という二冊の単行本を同じフラワーコミックスから発表しているが、その後の消息は不明。
 主人公・五十嵐愛は美園学園高等部の新入生。テニス部の有力選手である二年生の夏目敬一に憧れてテニス部に入部し、複雑な部内の人間関係に戸惑いながらも少しずつ成長していく、というのが物語。どちらかというと、テニスそのものよりもテニス部内の人間関係に重点を置いた作品であり、特に愛と夏目、そして女子部の部長である小野敏江と主力選手の櫻木葵の四名の、微妙に屈折した人間模様が面白い。
 ただ、メインの女性三人はそれなりに掘り下げた深みのあるキャラ(特に小野部長は個人的に結構お気に入り)なのだが、肝心の夏目君が今一つ魅力を出し切れないまま終わってしまった印象がある(彼も彼で色々と屈折した部分を持っているので、その辺の過去話などをもっと詳しく描けば、より物語に味わいが出ただろうに)。
 作品内の設定で目を引く点としては、部活の中で有力選手を男女四名ずつテニスクラブに派遣する、という制度である。実際にこのようなシステムの学校があるのかどうかは分からないが、テニス漫画においてよく語られるテーマであるテニス部vsテニスクラブの対立をテニス部内の構造的問題として形で組み込んでいる点は、なかなか面白い。
 ちなみに、一応、二巻本ではあるが、実質的には1.5巻弱程度の頁数しかない。そのせいもあって(練習風景はそれなりに丁寧に描かれているのだが)テニスの試合がまともに描かれることもなく、本筋の人間関係にある程度のケリがついて、やっと本格的にテニス漫画になろうとするところで終わってしまっている。
 故に、テニス漫画としては今一つ物足りないのだが、この漫画があくまで「組織内の人間関係」に軸足を置いた作品であることを考えれば、この辺りで終わらせるのが適切かな、とも思う。大団円でも悲劇でもなく、微妙な余韻を残しながら終焉を迎えるというのもまた、一つの王道と言っても良かろう。