高口里純『銀』

連載:『別冊花とゆめ』(1994〜1995年)
単行本:白泉社花とゆめコミックス(1994〜1995年) 全4巻
    メディアファクトリーMF文庫(2003〜2004年) 全4巻


 『花のあすか組!』『ロンタイBABY』などで有名な人気作家・高口里純の描いたサイキック・サスペンス漫画。なお、本作品の外伝に相当する作品として『黒〜ニグレード〜』がある(メディアファクトリー版は、その『黒』と合わせて全4巻に再編集されている)。作者は現在も少女漫画・レディースコミックの世界の第一線で活躍中。
 物語は、かつてテニス選手を志しながらも挫折したビル・ターナと、彼の息子の臓器移植によって一命をとりとめた謎の美少年アル・ターナの二人を中心として展開される。アルはビルの意志に従ってテニス選手として彗星のごとくデビューし、いきなり世界トップ級の選手として名を知られるようになるが、そうした彼の躍進と並行して彼の存在そのものを巡る様々な陰謀劇が繰り広げられていく。
 同性愛、死体愛好趣味、超能力など、様々な要素が絡み合った実に複雑な物語で、テニスの場面自体は実はそれほど多くはない。しかし、公式戦以外にも、裏社会の秘密クラブの中でのテニスの試合や、謎の施設における不可思議な練習など、胡散臭さ満載(褒め言葉)のテニス描写が随所に鏤められており、それはそれで結構面白い。
 ただ、如何せん話が分かりにくいのが難点である。『黒』の方と合わせて読めばもう少し分かりやすかったのかもしれないが(実は私はまだそちらは読んだことがない)独立した一つの作品として評価する限り、なんだかよく分からない観念論が繰り返された結果、最終的によく分からないまま終わってしまった話、という印象を拭えない。
 とはいえ、さすがに天下の高口里純だけあって、難解な物語展開にも関わらず読者を惹き付ける独特の「雰囲気」が作品全体から醸し出されており、サイキック系や猟奇系にあまり詳しくない私をもその世界に引きずり込むだけの力を持った作品ではある。テニス漫画としてはあまりお勧めは出来ないが、一種独特の世界観を持つ作品なので、一読の価値はあると思う。