太田垣康男『一生!(KAZUO)』

一生! 1 (モーニングKC)

一生! 1 (モーニングKC)

連載:『週刊モーニング』(1998〜1999年)
単行本:講談社モーニングKC(1999年) 全4巻


 『週刊漫画アクション』の『一平』や、『ビッグコミックスペリオール』の『MOONLIGHT MILE』などで有名な太田垣康男が『週刊モーニング』で描いたテニス漫画。作者には他に『東方機神傅承譚ボロブドゥール』や『王様気分でいこう』などの著作がある。
 物語は、アマチュア界で一、二位を争うテニス選手だった飯島大樹が、プロ転向直前に生まれた息子・一生(かずお)が重度の心臓病「ファロー四徴症」だという事実を知らされるところから始まる。幸せの絶頂から絶望の淵へと突き落とされた大樹と妻・由美の苦悩が濃密に描かれ、そこから大樹が「息子のために出来ること」を探し出していく姿が、読者の心を揺さぶる。
 そして、人間ドラマだけでなく、テニスの場面においてもその描写はひたすら重厚で、大樹達の打球の音が聞こえてくるかのような迫力に圧倒される。そして、大樹のライバル達もまたそれぞれに「負けられない理由」を抱えながら戦っており、その気持ちと気持ちの衝突が、熱く激しい死闘を演出している。人間描写とテニス描写の両面でここまで熱く重厚な物語を描いた作品は、過去に例が無いかもしれない。
 やがて、その大樹を中心とした物語は第三巻の途中でひとまず終わりを告げ、その後は息子・一生が主人公となる(実はここからが本編)。彼が六歳になり、尊敬する父の姿を追いながら病気と戦っていく物語が描かれる訳だが、ここから先はややテニス漫画としての側面が弱まり、悲しい運命に立ち向かっていく一生と、それを支える人々との人間ドラマが中心となっていく。
 そして、最終的には彼が15歳となって、テニス選手を志す物語が始まるのだが、その直後に連載が打ち切られてしまい(この背景には、心臓病患者の子供を持つ親からの抗議があったと言われているが、真相は不明)、単行本には成長後の彼の姿は未収録で、私自身も未読である。故に全体的な評価を下すのは難しいのだが、それでも私はあえて、本作品は「テニス漫画」としても「人間ドラマ」としても傑作中の傑作であると断言したい。そう思わせるくらいに、私の心の琴線を揺さぶった作品であった。