『0-LOVE(ラブツーラブ)』

0‐love(ラブツーラブ) (1) (講談社漫画文庫)

0‐love(ラブツーラブ) (1) (講談社漫画文庫)

連載:『プチコミック』(1989〜1990年)
単行本:小学館フラワーコミックス(1990-1991年) 全4巻
    講談社漫画文庫(2001年) 全2巻


 『パール・パーティー』や『PARTNER』など、小学館の少女漫画・レデコミ界を中心に活躍する人気作家・名香智子(なか・ともこ)が、『プチコミック』にて描いたテニス漫画。作者は現在は『水色童子K. K.』『マダム・ジョーカー』などを連載中。
 壮麗な洋館に住む大富豪の長男・桐生澄也(きりゅう・すみや)と、その桐生家の使用人の息子・織田正太郎、そして澄也の従妹・天童美姫の三人が、テニスを通じて成長していく様子を幼少期から青年期にかけて描いた作品。それぞれに複雑な苦悩を抱える天才肌の澄也と優等生の正太郎、そしてその二人と対照的にマイペースで天然系の美姫が、それぞれの立場でモノローグを語りながら物語を進めていく。
 当初から既に突出した実力者であった澄也と正太郎は、腕試しに出場したジュニア大会でのライバル・天羽翔(あまは・しょう)との出会いを契機に本格的にジュニア・サーキットの世界へと挑戦し、最初は初心者だった美姫もまた二人の指導で徐々にその才能を開花させていく。小学生編はこの三人のテニスの試合描写が中心であったが、やがて物語の主軸はこの三人を中心とした恋愛劇へと移っていくことになる。
 テニス漫画としての本作品の特徴は、作者のテニス経験に裏付けられた細やかな技術論にある。実に繊細な画風とは裏腹に、特に小学生編においては物語に挿入される形で詳細な「解説コーナー」が設けられるなど、かなり本格的なテニス漫画の様相を呈している。また、国内のジュニア大会のシステムなどについても、ここまで詳しく描かれている作品は他に例を見ない。
 残念なのは、物語の終盤がやや駆け足気味になっている点である。文庫版の作者コメントを読むと、作者自身も彼等の海外での活躍をもう少し描きたかったらしいのだが、やはり雑誌の性質上、スポーツ漫画を描く上では色々と限界もあったのかもしれない。
 クセのある絵柄なので、好き嫌いは分かれるだろうが、その中身はレディコミ誌(?)のテニス漫画としては異例なほど本格派であり、見た目以上に多くの人々にお勧め出来る作品と言える。