高橋陽一『翔の伝説』

連載:『週刊少年ジャンプ』(1988〜1989年)
単行本:集英社ジャンプコミックス(1989年) 全3巻


 日本サッカー漫画史の金字塔『キャプテン翼』の作者・高橋陽一が、同作品終了後にWJで連載したテニス漫画。作者はこの後、野球漫画『エース!』やボクシング漫画『CHIBI』を描いた後、再び『キャプテン翼』の続編を執筆することになる。現在はYJにて同作品の最新版『GOLDEN 23』連載中。
 主人公は、かつて学生選手権の優勝者であった高見沢涼の息子・高見沢翔。本編は彼が5歳の幼稚園児だった頃から始まり、やがてグランドスラムを達成するに至るまでの半生を描く壮大な物語、となる筈だったのだが、作者曰く「最初の構想の10分の1も描けないまま」わずか3巻で終了してしまった悲劇の作品。第1巻から第3巻の途中までは「第一部」として翔の幼稚園児時代が描かれ、第3巻の途中から「第二部」として五年後(小四)の彼の物語が始まるのだが、その冒頭でいきなり打ち切られてしまった。
 私見だが、この人はあまり「人間ドラマ」を描くのには向いていないのではないかと思う。ひたすらサッカーの面白さのみを追求した『キャプテン翼』とは対照的に、本作品では妻の死によって屈折してしまった涼と、その涼の身勝手に翻弄される翔の苦悩を描こうとしているのだが、やたら台詞ばかりが長くコマ割も単調で、正直言ってあまりそのドラマに感情移入出来ない。
 一方、試合描写に関しては、さすがにスポーツ漫画で一時代を築いた人だけのことはあり、選手達の躍動感や緊迫感を表現するのは非常に上手い。特に第二部で登場する「超高層タワーリングサーブ」や「くもの巣ボレー」などの必殺技は、まさに高橋陽一の真骨頂と言えよう。最初から、無理して深みのある人間ドラマを描こうとはせず、このように開き直って「テニス版キャプテン翼」の路線で描いていれば、ここまで無惨な打ち切りにはならなかったのかもしれない。
 正直言って、マニア以外にはあまりお勧め出来る作品ではないが、単なる「失敗作」の一言で闇に葬ってしまうには惜しい内容であったとも思う。願わくば、作者がこの後、どのような物語を構想していたのかを、いずれ何らかの形で知る機会が欲しいと思うのは、私だけではあるまい。