井上泰樹『ジャストAce』

連載:『週刊少年ジャンプ』(1985年)
単行本:集英社創美社)ジャンプスーパーコミックス(1986年) 全1巻


 1980年代の週刊少年ジャンプで連載されたテニス漫画。作者の井上秦樹(やすき)の他の作品には、ボクシング漫画の『セコンド』、『16フィートの真夏』(原作:田中誠一)などがある。
 主人公は、テニスクラブでボールボーイとして働きながら練習を続ける11才のジュニア選手・荻野目純。「フォアのストレートだけでエースを取る」ということを信条に掲げる彼が、トップスピンを武器に様々なジュニア選手達と戦っていく、という物語。その中でも特に「ジュニアの丘」と呼ばれるジュニアテニスの養成機関のスタッフである元全日本チャンピオン・五十嵐有希(ゆうき)と、その子供の三兄妹との絡みを中心として物語は展開していく。
 テニスの基礎的な戦術などについてはそれなりに丁寧に解説しつつも、そのことを前提とした上で「ダブルウィング・マニピュレーション」や「ライトニングフラッシュ・ショット」などの奇抜な必殺技が繰り出される展開はまさにジャンプの王道であり、『テニスボーイ』の正統後継者と呼ぶに相応しい内容だと思うのだが、なぜか人気は奮わず、僅か単行本一巻、それもかなり中途半端なところで打ち切られてしまっている。
 とりあえず、主人公のネーミングセンスを初めとして(『ファイアーショット』の早見夕子といい勝負だとは思うが)、色々とツッコミ所はあるものの、魔球漫画としての内容自体は決して悪くない。しいて問題点を上げるとすれば、この人の場合、見開き頁のコマ順のルールが通常の漫画と異なるため、部分的にやや読みにくい箇所もあるのだが、それほど大きな問題とは思えず、ここまで早く打ち切られなければならない理由が私には見当たらない。だとすると、やはり当時のジャンプの読者層のニーズと合わなかった、ということになるのだろうか(この時代のスポーツ漫画は『キャプテン翼』の一人勝ち状態であった)。
 今となってはamazonのデータすら検出されない幻の単行本となってしまったが、ジャンプのテニス漫画史を語る上では決して外したくない作品であるので、もしどこかで見かけたらぜひ手にとってみて欲しい。