宗美智子『ふたりのシーズン』

初出:『週刊マーガレット』(1983年)
単行本:集英社マーガレットコミックス(1984年) 全1巻


 『アドバンテージ昇悟!』の二年後に、『週刊マーガレット』で描いた作品。内容的には『昇悟!』の前日談にあたるが、掲載誌が異なることもあり、全く独立した作品として読んでも支障のない内容となっている。
 主人公は、中学三年生の天才テニス選手・津川正義と、密かに彼に憧れる少女・白川夏子。気が弱く、自分の意見を口にすることが出来ない白川が、津川と同じ高校に行きたい一心で、面接試験のある平河内高校の受験を決意するところから物語は始まる。やがて高校入学後に津川を大きな悲劇が襲うことになるのだが、そんな彼を白川が懸命に支えようとする姿が描かれていく。
 『昇悟!』ではひたすら大人な存在として描かれる津川が、そこまで精神的に成長するに辿る最初の発端を描いた作品である。別マの作品の外伝を週マで掲載するというのは(逆ならともかく)かなり異例のパターンのように思えるが、それだけ前作が好評だったということなのだろう。
 私の場合は発表年順に『昇悟!』の方を先に読んだため、本作品がどのような展開になるかは途中からほぼ予想出来たのであるが、先の展開が分かっていても面白いと思えたのは、ひとえに物語構成の上手さに他ならない。実際のところ、似たような展開は他の漫画にもあるのだが、たとえば本作品の72頁における白川の台詞などは、それを裏付ける根拠としては実に秀逸であり、そのネタばらしのタイミングも絶妙である。
 無論、作品内の時系列的には本作品の方が先なので、本作品を先に読んでから『昇悟!』を読むのもまた良いだろう。それぞれに味わい方は異なるが、どちらの順番でも十分に楽しめると思う。
 合計100頁程度の読切り作品なので、テニス描写自体は薄いのであるが、「テニスを巡る青春物語」としては最高品質の内容と言えよう。それにしても不思議なのは、作者は大阪出身で、彼女が描いたテニス漫画は全て舞台が近畿地区であるにも関わらず、なぜか殆どのキャラが標準語で話しているということである。やはり、関西弁は少女漫画ではあまり受け入れられないのだろうか。