志賀公江『真っ赤なストローク』

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連載:『週刊マーガレット』(1975年)
単行本:集英社創美社)マーガレットレインボーコミックス(1977年) 全1巻


 『スマッシュをきめろ!』の志賀公江が、同作品の連載終了後、『エースをねらえ!』の第一部と第二部の間の休載期間の時期に『週刊マーガレット』で短期連載した作品。ちなみに、マーガレットレインボ−コミックスとジャンプス−パ−コミックスは「発売:集英社」「発行:創美社」であり、本作品のような初期の単行本においては、背表紙には「創美社」と記載されている(後期においては、他のジャンプコミックス同様「集英社」表記となる)。
 主人公は、横浜で荒んだ生活を送っていた混血の孤児・秋庭珠里(ジュリー)。彼女が、人気テニス選手・磯村マリアと瓜二つであるという理由から、マリアのマネージャーであるテディ御影(みかげ)に、マリアの代役を頼まれるところから物語は始まる。当初は全くの素人だった珠里が特訓を通じて急速に実力を身につけていく一方で、マリアとテディ、そして世界トップ選手であるエヴァ・グリーン夫人との間で、微妙に屈折した人間模様が描かれる。
 まず、本作品と『スマッシュをきめろ!』を比較してみると、作者の画力が段違いに向上していることが分かる。全体で150頁程度の作品なのでテニスの場面自体は少ないが、地味ながらもきっちりと描かれており、漫画としての表現力・構成力を比べてみても、明らかに本作品の方が完成度が高い。当初から短期連載の予定で執筆していたようだが、「この頃の絵で『スマッシュをきめろ!』を描いていれば、『エースをねらえ!』以上のヒットになったかもしれないのに……」などと妄想したくもなる(まぁ、実際には『スマッシュ〜』があったからこそ『エース〜』が生まれ、『エース〜』があったからこそ、本作品が生まれたのだろうが)。
 作品全体の評価としても、綺麗にまとまった良作と言って良いだろう。一見すると御都合主義的な作風の中に、当時の実際のプロテニス界における諸事情などが盛り込まれている点も興味深い。現在では入手は非情に困難だが、テニス漫画の本流であるマーガレットの歴史の中で埋もれてしまった隠れた名作であると私は思う。