麻生いずみ『ラブショット!JUN』

ラブショットJun (マーガレットコミックス)

ラブショットJun (マーガレットコミックス)

連載:『週刊マーガレット』(1984〜1985年)
単行本:集英社マーガレットコミックス(1985年) 全1巻


 バレー漫画『光の伝説』やダンス漫画『ナチュラル』などで有名な麻生いずみの初期の作品。作者は昨年、久々の単行本作品として、実在のダンサー/振付師である香瑠鼓をモデルに描いた『頬にかかる虹〜私を見て!障害児たちは踊り続ける』を発表した。
 主人公は、市立第一高校に通う二年生の女子生徒・葛西ジュン。友人とのスキー旅行の最中に、「北の狼」の異名を持つ北ノ宮高校三年の有名テニス選手・高生一狼(たかお・いちろう)と出会ったことを契機に、テニス部への入部を決意する、という物語。基本的にはジュンと一狼こと狼(ろう)の恋愛が物語の軸となるが、それと並行して、全くの素人であったジュンのテニス選手としての成長も描かれている。
 気性の激しいテニス選手で、しかもかなりの美形でありながら、恋愛に関してはひたすら奥手である狼は、男性視点から見ても普通に萌えキャラであり、読者を惹き付ける「王子様」として十分に魅力的な人物である。一方で、彼以外のキャラの印象が今一つ弱いのもまた事実なのだが、作品自体が短いことを考えれば、そこまで描けなかったのも仕方あるまい。また、最後のオチはちょっと安直すぎでは? とも思うのだが、まぁ、あくまでこの作品は「ジュンと狼のための物語」だと考えれば、こういう展開もアリなのだろう。
 テニス描写に関しては、頁数は少ないがそれなりに丁寧に描いており、一つ一つの動作の描写からは激しい躍動感が伝わってくる。この辺りは、さすがにダンス漫画で一世風靡することになる作者の面目躍如と言えよう(ちなみに、本作品の冒頭でもダンスパーティーの場面は登場する)。
 全体的には、良くも悪くも「普通の少女漫画」といった印象である。もう少し長く続ければもっと面白くなったかもしれないが、やはりこの人の作風は、スポーツよりもダンスの方が向いてるように思えるので、この辺りで話を切り上げて『光の伝説』に取り組んだのは正解だったのだろう。とはいえ、テニス漫画として読んでも十分に楽しめる内容なので、この時代の少女漫画の雰囲気が好きな人なら、読んで損はない作品だと思う。