湯沢直子『Come on! マック』

連載:『週刊マーガレット』(1983年)
単行本:集英社マーガレットコミックス(1983年) 全1巻


 バレーボール漫画『翔んでるルーキー』で有名な湯沢直子が『週刊マーガレット』誌上で二回にわたって描いたテニス漫画。厳密には、前半が「Come on! マック」、後半が「We love マック!」という二本の読切という形式だが、本レビューでは一本の作品として取り扱う。作者はその後、秋田書店で『毎日がスキャンダル』などを発表した後、近年はキャスリン・ロスのハーレクイーン小説『花嫁のルール』の漫画版などを手掛けている。
 主人公は、わずか14歳にして全米ジュニアの優勝を果たした蒔枝朗(まきえだ・ろう/通称:マック)と、そんな彼のファンを自称する少女・愛摘(えつみ)。日本に帰国したマックが、愛摘の恋人の五脇連人(いわき・れんと)や、彼女等の先輩にして高校生チャンピオンの穂高鋲(ほたか・びょう)といった面々と全日本ジュニア選手権を戦うことになる、という物語。
 主人公のマックは、その名前だけでなく、性格も風貌も明らかにマッケンローをモデルとした「悪童」であり、試合の度に審判にクレームをつけて周囲の反感を買い続けるのだが、そんな彼のことを愛摘だけはずっと応援し続ける。他の登場人物の面々も、レンドル、ボルク、コナーズといった当時の人気選手達がモデルとなっており、作者のテニスファンぶりが伺えて面白い(よく見ると、名前のないキャラ達の中にも、実在の選手を想定していると思しき人物も見受けられる)。
 テニスの試合の場面に関しては、それなりに丁寧に描写されているものの、細かい技術論ではなく、(主人公が上記のような性格であるが故に)全編通して精神面の重要性を説く場面が多く、これはこれでテニスの重要な一側面を体現した、説得力のある描写と言えよう。
 そしてこの物語のもう一つのテーマが、アスリートとして更なる向上を目指そうとする選手達と、そんな彼等に置いてきぼりにされがちな恋人との間の葛藤である。読者がどちらの側の立場で読むかによって作品の印象も異なるとは思うが、どちらの立場から読んでも味わい深い作品であると私は思う。