秋重学「エース」(『僕の夏は泳げずじまい』収録)

僕の夏は泳げずじまい (九竜コミックス)

僕の夏は泳げずじまい (九竜コミックス)

連載:『ビッグコミックスピリッツ』(1992〜1993年)
単行本:河出書房新社九龍コミックス『僕の夏は泳げずじまい』(2001年)


 『週刊ビッグコミックスピリッツ』を中心に活動する個性派漫画家・秋重学のデビュー作(厳密には「エース」「エースII」「エースII'」という三本の短編作品だが、本レビューでは一作品として扱う)。単行本としては、河出書房新社から発売された『僕の夏は泳げずじまい』の中に収録されている。昨今は、同じ小学館の『週刊ヤングサンデー』にて『SPEED』(原作:金城一紀)を連載中。
 主人公は、八神中学・男子テニス部の一年生部員・狛江川マナ。同校の軟式テニス部が県内屈指の名門校であることも知らず、「テニス=楽そう」と勘違いして気楽に入部してしまった彼が、先輩・金田によるシゴキから逃れる方法を模索しつつ、同学年の女子テニス部員・宮川(妹)との間での微妙な関係の中で、少しずつテニスに対する思いを強めていく、という物語。
 一般に、テニス漫画においては中学の時点から既に硬式テニス部が存在している(本編中では名言されていなくても、明らかに硬式球で試合をしている)ことが多いが、現実の日本の中学では軟庭の方が圧倒的に多数派であり、本作品はそのような「現実の日本の中学における一般的な軟式テニス部」における男子部員の「リアルな感性」を描くことに主眼が置かれている。故に、テニスの試合描写自体は非常に薄く、「スポーツ漫画」というよりも「部活漫画」と呼ぶべき作品であると言える。
 この人の作品は非常にクセが強く、独特のテンポで展開される(系譜としては、スピリッツというよりもむしろアフタヌーン的な作風のように思える)のであるが、特に本作品は最初期の作品であるため、コマ構成などの面で読みにくさを感じる場面も多い。ただ、それもそれで一つの個性だと思って読めば、味のある作風であるとも言える。
 派手でも華麗でもなく、ドラマティックでもカッコ良くもない、ごくごく一般的な男子テニス部員の、等身大の青春を描いた作品であり、おそらく好き嫌いは分かれると思うが、色々な意味で一度は読んでおく価値のある作品であると思う。