前山滋『檸檬(れもん)色の夏』

檸檬色の夏 (モーニングKC)

檸檬色の夏 (モーニングKC)

連載:『週刊モーニング』(1986〜1988年)
単行本:講談社モーニングKC(1998年) 全1巻


 『週刊モーニング』にて連載された、様々なスポーツを題材とした短編シリーズ(各話の間に物語的な連関性はない)。正確には、「檸檬色の夏」とはシリーズ全体のタイトルであると同時に、その中の「第一話(テニス編)」のタイトルでもあり、ここでレビュー対象となるのはその第一話である(ちなみに、第四話のヒロインもテニス少女である)。なお、作者の前山滋はこの後、 白夜書房から『釘師玉出のホール日記』を、宝島社から 『リーマンスロッター山ちゃん』を発表した。
 主人公は、テニス部に所属する一年生の男子生徒・野田良平。彼の所属するテニス部は部内のトーナメント戦で勝ち抜いた者がレギュラーになれる、というシステムを採用しており、三年生引退後は二年生の「四天王」が君臨している、という状態であった。そのようなテニス部の中で自身がレギュラーの座を掴むために、良平が僚友の五里を自主トレに誘うところから物語は始まり、やがて、女子マネージャーの杉本との交流を経て、部内最強の男・三田章一との対決へと展開していく。
 本作品の形式的な「主人公」は良平で、物語の大半は彼のモノローグで語られるのだが、実質的な「主役」は実は五里であり、良平の視点から見た五里の姿を描く、というのが本編の軸となっている。基本的にこれはこのシリーズの他の作品にも共通する手法であり、一般的なスポーツ漫画とは一線を画す独特の表現法と言えよう。
 テニス描写に関しては、試合展開がモノローグだけで片付けられてしまっているため、少々物足りない感はあるが、作品自体があくまで「スポーツを通じての青春群像」を描くことに主眼が置かれているため、必要以上の緊迫感やドラマを試合自体に求めるのも筋違いなのだろう。
 絵柄はいわゆる劇画調だが、あまり「濃い絵柄」はなく、むしろ淡い雰囲気すら感じさせる、非常に丁寧な作風である。まぁ、現代の我々の視点から見ると、地味と言えば地味だし、古いと言えば古いのだが、穏やかな雰囲気の中で醸し出される1980年代作品特有の情緒感は、決して今見ても色褪せるものではない。