佐野未央子『ダブルス』

ダブルス (マーガレットコミックス (1294))

ダブルス (マーガレットコミックス (1294))

初出:『別冊マーガレット』(1986年)
単行本:集英社マーガレットコミックス(1987年) 全1巻


 現在、集英社の『コーラス』にて『君がいない楽園』を連載中の佐野未央子の初期の作品(単行本としては四冊目)。作者には他に代表作として、『木綿の天使達』『こっちむいてチュ』などがあり、この単行本には「KoKo夏のテーマ」と「い・け・な・いダーリン」が同時収録されている。
 主人公は、高校二年生の女子テニス部員・木原菜里。一年生の時から彼女とダブルスを組んでいる同期生の山下紫乃、女子部キャプテンの若松、男子部員の藤井利伸といった周囲の人々との間での部活内の人間関係を中心に、最終的に彼女達が県大会に出場する直前までの物語が描かれる。基本的には、菜里と紫乃の友情物語であり、前年度の大会では準決勝にまで進出したこの二人のダブルスの強さの根源にある「絆」の深さを描くことに重点が置かれている。
 全編通して様々な組み合わせでのテニスの練習試合の風景は描かれており、フォームの描き方などにもそれなりに丁寧なのだが、どの場面も断片的な描写に留まっており、やや物足りない感は残る(まぁ、100頁程度の前後編作品である以上、それは仕方ないとは思うが)。
 個人的には、二人にとっての「憧れの存在」である若松キャプテンがなかなか良い味を出してると思う。彼女自身が心情を語る場面がないので、彼女の真意は読者の解釈に委ねられているのだが、そういった形で、最後まで「主人公の視点」で読ませて、細かいタネ明かしはしないというのも、それはそれで一つの粋な描写と言えよう。
 これは、もう一人の重要人物である藤井に関しても同様で、最後の「イラン」のエピソードは面白かったものの、彼の心情そのものがあまり深く描かれていないので、やや淡白な印象も受けるのだが、このような形であくまで女性視点に特化して男女関係を描くというのも、一つの王道なのだと思う。
 既に絶版化してはいるものの、ネット上の古本屋などでは頻繁に出回っており、探すのはそれほど困難ではないと思う。「部活漫画」が好きな人には、自信を持って進められる作品である。