和田尚子『エキストラプレイヤー』

初出:『デラックスマーガレット』(1987年)
単行本:集英社マーガレットコミックス(1987年) 全1巻


 現在、『別冊マーガレット』にて『Flower』を連載中の和田尚子の初期の作品(単行本としては三冊目)。単行本内には他に「ひとひらの雪さえ」「やさしいさよならよりも…」「やさしさはスローで」「いつのまにか国分寺」という四本の短編が収録されている。作者の他の代表作としては『片道切符』シリーズなどが挙げられる。
 主人公は、高校二年生の女子テニス部員・豊田世利花(とよた・せりか)。中学時代は無敵の強さで、ジュニア大会のタイトルを総ナメにしていた彼女であったが、中三の時の交通事故以後、得意の武器だったスマッシュが打てなくなり、高校進学後は万年補欠の座に甘んじてしまう。そんな彼女の復活を信じて混合ダブルスを組み続ける部長の鈴木亜留人(すずき・あると)と、かつて彼女に憧れていた後輩・伊鈴明日香(いすず・あすか)といった面々との間での世利花の葛藤と、そこから脱却していく姿が描かれる。
 短い内容だが、攻撃型プレイヤーだった世利花が、「スマッシュが打てない」という状況から、テニス選手として復活していく上での伏線が自然に物語中に鏤められており、テニス漫画としての描写には説得力が感じられる。
 ただ、物語展開としては、中学時代にそこまで有力な選手だった世利花の実績を殆どのテニス部員が知らないというのは少々無理があるし、彼女に憧れていた筈の明日香が、彼女の交通事故を知らなかったというのも、少々不自然に思える(ジュニアのトップ選手の事故なら、関係者の間で自然に広まってしまうのでは?)。
 あと、ネーミングに関しては、安易と言えば安易なのだが、個人的にはこういうセンスは嫌いじゃない。ただ、人名としては「とよた」ではなく「とよだ」の方が自然だったのではなかろうか?(例の一族も、本名は「とよだ」である。社名を「トヨタ」にしたのには三つの理由があるらしい)
 まぁ、全体的にはよくまとまった話だと思うし、普通に楽しめる内容だと思うのだが、掲載誌が微妙にマイナーだったせいか、現在では古本すら中々見つからないのが残念なところである。