萩森千聖『リターンゲーム』

リターンゲーム (マーガレットコミックス)

リターンゲーム (マーガレットコミックス)

初出:『別冊マーガレットスペシャル』(1994年)
単行本:集英社マーガレットコミックス(1994年) 全1巻


 集英社白泉社を中心に、短編主体で20年以上(単行本総数約50冊)のキャリアを持つ漫画家・萩森千聖の作品。単行本内には、本作品の他に、「月の光のように」「さよならを言うなんて」が収録されている。近年は主に『オフィスユー』系の雑誌を中心に活躍し、『冬が来る前になら』『なつかしい愛情』などの単行本を発表している。
 主人公は、高校二年で女子テニス部の主将を務める伊藤佳代(かよ)。テニス部の同僚の足立貴子とは、男子部主将の宮沢の「(自称)ファンクラブ」を結成し、試合においてもダブルスを組む間柄。そんな彼女等の学校に、彼女の兄でテニス部OBの伊藤雅之が臨時コーチとして来訪したことから生じた人間関係の変容が描かれる。
 テニス描写に関しては、たとえば回想シーンにおいて、佳代が高校入学直後の頃に、中学時代の軟庭のクセが消えずにバックハンドの使い方で苦悩する姿が描かれるなど、おそらくはリアルな実体験談に基づいていると思われるエピソードが垣間見れて、なかなか面白い(というか、他の作者の作品を読んでていも思うことなのだが、マーガレットの編集部にはテニス漫画専門の担当がいるのではなかろうか)。
 物語構成としては、テニスと友情と恋愛が程よく織り交ぜられた内容で、読んでいて心地よい。正直、「オチ」は少々意外性に欠ける気はするが、その最後の情報を出すタイミングや、その直前の展開の組み立て方などが絶妙で、全体的にテンポよく物語が盛り上げられている。この辺りは、さすがに短編作品のエキスパートとしての作者の面目躍如と言えよう。
 最後に、どうでもいいトリビアを一つ。よく読まないと分からないことなのだが、実はこの作品、舞台が福岡に設定されている。高校テニス界屈指の名門・柳川高校の所在地であるにも関わらず、なぜか福岡を舞台としたテニス漫画は殆ど存在しない(『少年よラケット抱け』は「九州のほぼ中央部」という表記なので、おそらく熊本であろう)。その意味で、実はかなり貴重な設定の作品なのだが、物語自体にその設定が生かされていないのが残念なところである。