村田伊吹『恋のしるし』

恋のしるし (マーガレットコミックス)

恋のしるし (マーガレットコミックス)

初出:『別冊マーガレット』(1998年)
単行本:集英社マーガレットコミックス(1988年) 全1巻


 現在は「羽田伊吹」の名で、『従順なカラダ』(あおば出版)、『恋せよ乙女!』(秋田書店)などの単行本を発表している作者の、「村田伊吹」名義時代の三冊目の単行本。同時収録作品として、「ハピィ デイズ」「幸せが降るように」「春がきたらね。」の三本が掲載されている。
 主人公は、テニス部に所属する女子高生(二年生?)の坂井梓(通称:アズ)。過去の苦い経験から、本気でテニスに向き合う気持ちを失ってしまった彼女の前に、同じ高校の赤毛の陸上部員・成田竜司が現れ、彼女のラケットをゴミ箱に放り投げ、「本気じゃねーなら、やめろよ」と言い放つところから物語は始まる。微妙なスレ違いを繰り返しながら、アズが自分の中に潜む「テニスへの情熱」と「成田への想い」を少しずつ自覚していく展開が描かれる。
 本編中では、作品タイトルでもある「〜のしるし」というフレーズが幾度も登場し、それぞれの局面におけるアズの心理が示唆的に描かれており、その手法はなかなか独特で印象に残る。また、物語自体の内容も悪くはないのだが、残念ながら少々全体的に「詰め込み過ぎ」の感は否めず、特に成田の過去の解説や心情描写などは淡白に思えてしまう。その意味で、50頁強の短編で収めてしまうにはやや無理のある題材だったのかもしれない(作者自身も「不本意な出来になってしまった」と単行本内で述懐している)。
 テニスに関してもあまり本格的に描かれているとは言えず、物語全体の位置付けとしても、「別に他のスポーツでも良かったよかったのでは?」と思える程度の扱いでしかない。ただ、本作品のテーマ自体が、「どんなコトにおいても共通する普遍的な問題」としての「本気で打ち込むことの大切さ」を伝えることにあったことを思えば、それはそれで決して批難されるべき点ではないと想う。
 正直、マーガレットのテニス漫画という系譜の中に位置付けてしまうと少々物足りないのは事実だが、そもそもこの作品をそのような視点から読んでしまう私の姿勢自体が邪道なので、普通の人ならもう少し素直に楽しめる内容だと想う。