紡木たく『瞬きもせず』
- 作者: 紡木たく
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1999/03/18
- メディア: 文庫
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単行本:集英社マーガレットコミックス(1988〜1990年) 全7巻
集英社コミック文庫(1999年) 全4巻
集英社ガールズリミックス(2003年) 全3巻
1980年代の『別冊マーガレット』を支えた紡木たくの、『ホットロード』と並ぶ代表作。当初は短期連載の形で全1巻として単行本化されたが、後に続編が連載され、最終的に作者にとって最長となる全7巻の大作となった。その後、作者は1995年以降は休筆していたが、2007年末に編書房から12年ぶりの新作『マイ ガーデナー』が発売された。
主人公は、山口県の豊央高校の一年生・小浜かよ。中学時代は陸上部で、高校進学後はテニス部に所属した彼女が、同じクラスでサッカー部員の紺野芳弘に屋上へ呼び出され、告白されるところから物語は始まる。互いに恋愛経験がなく、相手との距離の取り方に困惑しながら少しずつ関係を深めていく二人を中心に、紺野と同じ中学の美つ子と輝哉、そしてかよの家族など、山口の片田舎に暮らす人々の生活が叙情的に描かれていく。
本作品の魅力を一言で表すならば、まさに「淡さ」である。「初恋」「青春」「純情」「憧憬」、そんな陳腐なキーワードでは表現しきれない、淡くもどかしい情景描写こそが、この作品の最大の魅力なのである。かなり独特の画風&コマ構成なので最初はとっつきにくいが、気がつくとその淡い物語世界の中に取り込まれてしまっている。
基本的にかよの視点で物語は進んでいくのだが、紺野のサッカー部内の描写がそれなりにきっちり描かれているのに対して、かよのテニス部での動向は殆ど触れられず、練習風景が時折描かれる程度にすぎない。その点はこのブログ的には残念な点ではあるが、「かよにとってのテニス」が「紺野にとってのサッカー」や「かよにとっての紺野」以上の存在ではない以上、それもやむなきことであろう。
ちなみに、作者は本作品を描くために、わざわざ山口県に移り住み、現地の方言や風景を作品に取り入れることにしたらしい。私は名古屋人なので、どこまでリアルな描写なのかは判断出来ないが、少なくともそこまでの情熱を込めて描かれた作品であるということだけは、十分に感じ取ることが出来た。