弓月光『おたすけ人走る!』

連載:『週刊マーガレット』(1979〜1980年)
単行本:集英社マーガレットコミックス(1980年) 全3巻


 『みんなあげちゃう』や『甘い生活』などで有名な人気青年漫画家・弓月光(ゆづき・ひかる)が、少女漫画家時代に『週刊マーガレット』で描いた作品の一つ。マーガレットのテニス漫画史の中に(無理矢理)位置付けるとすれば、『エースをねらえ!』と『ときめいてスマッシュ』の間に位置する作品である。
 物語は、女子校から共学化への転換を発表した私立PR学園が、身体能力に優れた15人の男子生徒を選抜する試験をおこなうところから始まる。主人公・織田助作は、様々な卑怯な手段を使ってその試験を合格し、学園長の長沢節子は助作の「手段を選ばずに勝つ姿勢」を歓迎する。彼女の娘である長沢可奈は、そんな彼や母の卑劣な方針に憤慨しつつも、母の命によって助作達の世話を命じられ、助作は彼女等の支援を受けて、テニス(第一巻)や野球(第二巻&第三巻)でルール無用の快進撃を繰り広げることになる。
 この作品の魅力は、なんと言っても助作達のド外道ぶりである。スポーツマン精神とは全く無縁な彼等が、競技場の内外で卑怯な反則や規約違反を繰り返してライバル達を蹴落としていく姿は、「スポーツ=健全&さわやか」という幻想へのアンチテーゼとして、実に痛快である。
 物語の本筋は、どちらかというと二巻以降の「野球編」の方に重点が置かれており、「テニス編」はあくまでもその前の「前座」的な位置付けではあるのだが、このテニスのエピソードだけでも十分に楽しめる。なにせ、主人公側(可奈以外)が結託して、相手選手(女子)を反則技で試合続行不能状態に追い込もうと画策したりするのだから、そのテニス描写の異常さは、『テニスの王子様』や『燃えるV』の比ではない。
 正直、第三巻を読み終えた時点では「もっと続けて欲しかった」という気もするのだが、さすがにこれ以上続けるのは、マーガレット誌上では無理があったのかもしれない。というか、当時のマーガレットって結構なんでもアリの雑誌だったのね、ということを実感出来る作品である。