榎本ちづる『ラブゲーム・ラブエール』

ラブゲーム・ラブエール (りぼんマスコットコミックス)

ラブゲーム・ラブエール (りぼんマスコットコミックス)

初出:『りぼん』(2000年)
単行本:りぼんマスコットコミックス(2000年) 全1巻


 『りぼん』にて『花まるGO!GO!』『13日は金曜日?』などを連載した榎本ちづるが、同誌の2000年春増刊号にて発表した短編作品。その後、作者の初単行本の表題作として単行本化。単行本内には他に、サッカー漫画の「昨日の敵は明日の…」、弓道漫画の「ハートに一直線」、陸上漫画の「青のシグナル」(デビュー作)という三本の短編が掲載されている。
 主人公は、日野大付属高校二年生のテニス部員である深谷円香(まどか)。物語の主軸は、円香の中等部時代からの友人である男子テニス部のエース・周防晶(すおう・あきら)に対する彼女の秘めた恋心の推移にあり、女子部員にモテまくりながらも全ての誘いを断わり続ける晶の真意を理解出来ぬまま、不器用に立ち振る舞い続ける彼女の姿が実に印象的に描かれている。
 一応、物語中で円香も晶もテニスの試合に挑む場面はあるのだが、その描写自体は薄く、物語全体の中でもさほど重要な場面として位置付けられている訳でもない。その意味で、あくまでも「テニス部を舞台とした恋愛物語」というのが本作品の本質であるのだが、そんな中でもテニスに真摯に取り組む晶の姿の描き方からは、作者のスポーツに対する真剣な姿勢が垣間見れて、好感が持てる。
 ただ、ページ数の制限はあるものの、上記の二人以外に本筋に絡むキャラが一人しかいないこともあって、やや物語展開が単調なように思える(あと、この人はあまりデフォルメ顔を多用しない方がテンポが良くなると思う)。ちなみに、本作品は単行本内で最も新しい作品であり、年代順に徐々に作風が洗練されているとは思うのだが、個人的には初期の頃の軟らかな雰囲気の作品の方が好みだったりもする。
 まぁ、全体的にやや辛口の評価にはなってしまったが、シリアスな場面の心情描写は読者に訴えかけるものがあるし、僅かなテニスの場面におけるフォームの描き方も丁寧なので、決して嫌いな作品ではない。運動部系の恋愛漫画が好きな人なら、一読の価値はある作品と言えよう。