ももち麗子『なみだ−問題提起作品集−』

なみだ (KC デザート)

なみだ (KC デザート)

連載:『デザート』(2000年)
単行本:講談社デザートKC(2001年) 全1巻


 『いたみ』『ひみつ』『めまい』など、様々な深刻な社会問題を取り扱うももち麗子の『問題提起作品集』の第五弾。2001年には『R-17』というタイトルで本シリーズがドラマ化されたが、その中で主要な題材の一つとして用いられた。作者は現在、同シリーズの最新作『こころ』を『デザート』にて連載中。
 主人公・鈴木チカは、音羽女子高校のテニス部の二年生。同部の顧問である東堂シゲルは、赴任以来、ジュニア出身ではない部員達を次々と一流選手に育て上げ、同校をインターハイ常連校にまで引き上げた名コーチとして知られているが、実はその裏で部員達に数々のセクハラ行為を強いてきた。チカもまた、そんな東堂から必要以上のボディタッチや卑猥な発現に苦しめられ、やがて耐えかねた彼女は東堂のセクハラを止めるために闘うことを決意することになる。
 女子校の部活動におけるセクハラというテーマ自体はさほど珍しくはないが、本作品ほど深くその問題に切り込んだ物語はないのではないか、と思わせるほど、その内容は重い。あまりにも過剰な東堂のセクハラと、それぞれの事情で表沙汰にすることを避けたい部員達の苦悩と、そのような状況下でより一層傷つけられていくチカの心の描写が、読者の心に深く厳しく突き刺さっていく。
 本編中にはテニスの試合描写は殆どないものの、あくまでも物語は「女子テニス部」という一つの特殊空間の中で展開されており、その意味では厳密な意味での「テニス漫画」とは言えないものの、濃密な「テニス部漫画」であることは間違いない。また、物語の前半では東堂のテニスコーチとしての優秀さが垣間見れる描写もあり、それ故のこの問題の深刻さも切実に描かれている。
 『問題提起』シリーズの中でも比較的人気のある作品で、特に最終盤でチカが東堂に言い放った台詞は、実に印象的である。そこから何を感じ取るかは人それぞれだろうが、この問題に対して改めて読者にもう一度再考させるに十分なインパクトの内容であることは間違いない。その意味でもまさに「問題提起」の名に相応しい作品と言えよう。