藤本ひとみ(原作)・竹田真理子(漫画)『りんごの星時間』

りんごの星時間 (講談社コミックスなかよし)

りんごの星時間 (講談社コミックスなかよし)

連載:『なかよし』(1989年)
単行本:講談社KCなかよし(1989年) 全1巻


 角川コバルト文庫を初めとする数々の少女向けライトノベルで活躍した小説家・藤本ひとみの原作に基づいて、『いつかグリーンパラダイス』や『アイネ・クライネ』などの単行本を残した竹田真理子が『なかよし』で描いた作品。近年の藤本ひとみは「王領寺静(おうりょうじ・しずか)」の名前でファンタジー小説を数多く執筆。一方、竹田真理子は北原美貴子原作のノンフィクション作品『少しは、恩返しができたかな』などを発表している。
 主人公の山下和美は、すぐに顔を赤面させる癖があることから「りんご」というアダナがつくほど、引っ込み思案で内気な少女である。そんな彼女と一文字違いのテニス部員・山下一美と、そのダブルス・パートナーにしてテニス部部長の美馬貴志(みま・たかし)、そして和美の友人の半崎ヨーコの四名を軸として、微妙に入り組んだ恋物語が展開されることになる。
 まずこの作品の特筆すべき点は、ひたすら性悪なヨーコと、そんなヨーコに振り回され続ける和美という構図である。正直言って、少々クドいと思わせるような展開も多いのだが、ここまで徹底しているヨーコという存在には、どこか心地良さすら感じてしまう。
 一方で、和美と一美のことをどこか達観した立場から見守る美馬という人物も非常に味のあるキャラであり、この作品の魅力の半分は彼なのではないか、とすら私には思えてしまう(ちなみに、この美馬という人物は、藤本ひとみの他の作品にも登場する有名キャラらしい)。
 テニス漫画としては、試合の場面自体は少なくものの、物語の途中から和美とヨーコがマネージャーとしてテニス部に入部することになり、以後は基本的にテニス部内を舞台として物語が展開されるので、その意味では典型的な「少女漫画型テニス部漫画」の一つと位置付けて良かろう。
 まぁ、「良くも悪くも昔の少女漫画」といった雰囲気なので、好き嫌いは分かれるかもしれないが、単行本一冊の作品としては、よくまとまった充実した作品だと私は思う。というか、この手の「内気な少女の恋物語」といったコンセプトの作品は、やっぱり全一巻で簡潔させるのが適切なのだろうね。