イケスミチエコ『緋色(ピンク)マイロード』

連載:『ひとみ』(1985-1986年)
単行本:秋田書店ひとみコミックス 全5巻(1985-1987年)


 『蒼い炎』『孔雀の微笑』などで有名な秋田書店の看板作家イケスミチエコの代表作の一つ。掲載誌は、かつて同社が発行していた少女漫画雑誌『ひとみ』。近年の作者は『まんがグリム童話』などを発表している。
 主人公は、野城高校一年生(物語開始時点)の国立緋色(くにたち・ひいろ/通称:ピンク)。学校では成績優秀・品行方正な優等生として知られている彼女であるが、実はその裏ではバイク(RZ)で夜の街を駆け抜けるもう一つの顔を持っている。物語は、国内随一の実力派のライダーであり、緋色が心から慕う兄・雄(ゆう)が暴走族の抗争に巻き込まれて命を落とすところから始まり、彼女が兄の遺志を受け継いでライダーとして生きていく姿が描かれる。
 ストーリーは基本的に「緋色がタチの悪いライダーと遭遇し、諸々の経緯の末に懲らしめるor改心させる」というパターンが多い。そして最終巻である5巻の最初の話では、緋色の親友である立川さち子(通称:さっ子)が次のテニスの試合に向けて練習している最中に一つの事件が勃発し、緋色はその真相解明に向けて奔走することになる。
 さっ子は物語のほぼ全編に登場する唯一のサブキャラなのだが、その割にテニスクラブ所属という事実が判明するのは5巻が初めてであり、また、初登場の時は「よっちゃん」と呼ばれているなど、設定が右往左往している様子が伺える。
 そして、本編では何人か緋色と「いい仲」になりかける男性もいるのだが、その大半がいつの間にか「いなかったこと」にされている。これは、おそらく読者層の入れ替わりの激しい掲載誌の事情に合わせた方針なのだろうが、まとめて単行本で読むと「なんだかなぁ」と思わされる。
 ただ、それぞれの単発の物語としての完成度は非常に高く、「秋田書店の少女漫画」ならではの硬派な女性ライダーの物語が楽しめる。今はコミックターミナルで読むことも出来るので、昨今の少女漫画とは一味違った「80年代の美学」や「カッコいい女性」が好きな人々には強くお勧めしたい。ただ、最終回がアレで終わりってのは、ちょっと寂しすぎる気はするんだけどね。