浜口奈津子「天使なんかいない」(『凍える恋人』収録)

凍える恋人 (フラワーコミックス)

凍える恋人 (フラワーコミックス)

初出:『デラックス別冊少女コミック』(2000年)
単行本:小学館フラワーコミックス『凍える恋人』(2000年)


 「BAD GIRLに聞いて」の作者でもある、近年の小学館を代表する短編漫画家の一人・浜口奈津子が描いた作品。単行本としては、「なっちゃんのピュアコレクション」シリーズの第一巻に相当する『凍える恋人』の中に収録(同時収録作品は表題作の他に、「とどかぬ思い」)。
 主人公は、16才でプロデビューし、現在は世界ランキング19位にまで登り詰めた18才の女子テニス選手・安里(あさと)リカ。コンピューター業界の最大手企業「UTR」とのスポンサー契約も結び、プロとして順調な道を歩んでいた彼女が、テニス肘の症状を患い、途方に暮れているところから物語は始まる。やがて彼女の前に謎の14歳の少年・光樹(こうき)が現れ、彼との不思議な同居関係が本編を通じて描かれていくことになる。
 相手役の少年が天才テニス選手であった「BAD GIRLにきいて」とは対照的に、今度は女主人公の方が若手有望テニス選手という設定なのだが、「年下の美少年」との関係を描くという意味では物語の構造は似ているとも言える。個人的にこの人の描く恋愛物語は好きなのだが、特にこのような「年下愛」を描いた話の方が上手く描けているように思えるのは私だけだろうか。
 全体通してテニスの場面は少ないのがこのレビューを書く身としては残念な点ではあるが、物語のテンポも構成もソツがなく、実に綺麗にまとまっている。特に、物語の一つの佳境であるベッドシーンに至るまでの描写の流れは実に見事であるし、ラストの一幕も個人的には好感が持てる。作者自身も単行本の中で「99年で一番好きな読み切り」と語っているが、確かに彼女の数ある作品の中でも「名作」の部類に入れるに相応しい内容と言えよう。